ミゼルが腕を下ろすと、戦っていたクノイチが倒れて電源が切れる。
私のインセクターはぎこちない動きのまま、倒れたクノイチをブレードでつついた。
「なかなか上達しないね。先が思いやられる」
「ひどい……」
「事実だ。不満なら言い返してごらん」
「出来ません。知ってるよ!上達しないって!」
部屋の中にこだまする私の嘆きにミゼルはなにも言わない。
足元に散らばるカスタマイズの残骸、様々なウェポン、雑誌に独自の研究ノート。
部屋の中央には展開されたDキューブ。
その向こうに立つアンドロイドのミゼルは、ぎこちない動きを見せるインセクターを見つめていた。
ミゼルがいつも特訓してくれるけど、私の腕はなかなか上がらない。
ミゼルに責任はない。彼の教え方はとても丁寧だ。
LBXに関してド素人な私がクラスで一番強くなってしまう程に。
ミゼルは自身のハッキング能力で、バン兄ちゃんから貰ったお下がりのLBXを動かし、私とバトルしてくれる。実践が一番だって。
「あのさミゼル」
「なに」
「インセクターのスピード、なんとかならない?ストライダーフレームの速さ、かなり殺してるでしょ」
「でも他の三種のフレームよりは速い。それで十分だよ」
「そうだよね……」
ミゼルはプレイヤーとしての腕だけじゃなく、メカニックとしての腕もすごかった。
私にはよく分からないけど、ストライダーフレーム特有のスピードを僅かに削ったり出来るような、そんなスゴ技。
ブースターがどうとか、抵抗力がああとか、理解出来ない事を教えてくれる。
「アユリ、もう少しボタンの打ち込みスピードを上げて。今さっきのスピードじゃ、機動力に長けたクノイチ系統のLBXには通用しないよ」
「もう頭も腕もどうにかなりそうだよ!あ〜あ、ミゼルが一緒に戦ってくれればいいのにな!」
「公式戦じゃ通用しな……いや、待てよ……」
考える素振りを見せたミゼルに首を傾げる。
そしてなにか思いついたように足元に散らばる雑誌を拾い上げ、「これだ」と口角を少し上げた。
「キミひとりじゃ見ていられない。だから僕が全力でアシストする。もちろん、八割は自分の力で戦って貰うよ」
雑誌を受け取り、開かれたページを見つめる。
そこには“貴方へのアシストギミック!ビット特集!”と書かれており、様々な会社の独創的なデザインのビットが載っていた。
「残りの二割は、キミが負けそうになったら僕が出そう」
ソードビット、レーザービット、シールドビット、ボムビット。
それらの中でひときわ美しい光を放つ黄緑色の刃に、私は一目惚れをした。
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「ソードビット作るよって言ったって……材料は?」
『材料はキミの周りに沢山あるじゃない。ここ、LBX塚にあるこれらの使えなくなったパーツは、持ち帰り可能なんだよ』
「へえ……」
パッと画面が変わり、ミゼルが消える。
新たに現れたのは、小さなパーツと大きなパーツの画像だった。
『これがソードビットを作る時に必要なものだ。ラボでこの形に削る。よって必要なのはこれより一回り大きなパーツ』
「集めろってこと?」
『そうだよ』
「ですよね……」
見上げれば山のように詰まれたLBXのパーツがある。
この中から、ミゼルが欲しいパーツを探すのか。
骨が折れそう。
嫌そうな顔が表情に出ていたのか、ミゼルが私の名前を呼ぶ。
CCMに視線を戻せば、なんとも言えない表情のミゼルと目が合う。
『戦いはこれから激化していくだろう』
「うん」
『ソードビットがあれば僕は戦場に出られる。アユリがハーネスの皆を守るように、僕もアユリを守る』
「え、あ、ありがとう……」
『なに照れてるの』
「照れてない!」
守るなんて面と向かってハッキリ言われた事ないから、ちょっとドキッとしただけた。
『アユリ、僕が本格的に戦場に出ることの意味を理解して』
「……」
『これはズルだ。他者の手を借りて戦場で生きる、狡い方法だ。それでもキミは』
「使うよ。ソードビット。ミゼルにいっぱい手を貸して貰うよ」
バンデットは強い。私が戦った相手は倒せたけど、あの黒い機体が同じ様に倒せるとは限らない。
一機だけ違うデザインだったんだ。幹部とか、そういうやつなんだろう。
そんな奴に、ハーネスをロストさせたくない。
守りたい。みんなを、ハーネスを。仲間を。
「ズルしたって勝つ。守れるなら」
『じゃあ決まり。パーツ、よろしくね』
「任せて」
腰を上げて、CCMを片手にゴミ箱の裏から出て行く。
山のように詰まれたパーツを見上げ、CCMに表示された見本と見比べながら私はミゼルが望むパーツを探し始めた。
2016.05.16