通信画面はそのままだが、画面を見ている余裕は無い。
だがかけ声やモニターに映るスズネの戦いっぷりでわかるのだ。
《スズネ、お前は後衛からのサポートだろ?》
《初出撃だし、アユリちゃんに花を持たせてあげようよ》
《しゃーないなー……》
本来の任務のはずなのに何故か不服そうなスズネの声を聞きながら、私は必死にレバーを動かす。
視界の端にカゲトラさんのスマートな勝利を捉え、スズネの荒っぽい勝利を捉えながら。
オアシス8を守るアラビスタ同盟のLBX・ジラントを倒していく。
青い光を放って動かなくなるその瞬間を最後まで見送る事無く、次のターゲットへと向かうのだ。
最後のジラントを倒した時、スズネが《スカッとしたわ〜》と笑った。
辺りに敵機の反応は無い。これはもしや……。
《よっしゃー!ウチらの勝ちやで!》
「か、勝ったの?」
《ああ。お疲れ様》
《領土奪還、更にアユリの初陣も勝利で飾れて、ホンマ万々歳やな!》
レバーから手を離し、伸びをするスズネが見える。
静かに労ってくれたカゲトラさんにも同じ言葉で労った。
CCMの中でミゼルがグーサインをしたのをみつけ、私もグーサインを返した。
《ん?アユリ、誰にやっとるん?》
「うえ!?別に!?」
そうだよ、今は通信画面が!
《“オアシス3”の所有権は、ロシウス連合軍よりジェノックに移ります。基地内戦闘は直ちに終了してください》
わたふたしていると、アナウンスが鳴り、みんなの意識がそちらに向いた。
ラッキーだった……。
ジェノックがロシウス連合軍とやらに勝利したようだ。
アラタと星原くんの居る国だったよね、ジェノックって。友達が勝ったのはすごく嬉しい。
《ジェノックがロシウスに健闘したか。あそこも俺たちと同じくらい小国なのにな》
《やるやない。その内ウチらとも一戦やるんちゃう?》
《このまま期待のルーキーが突っ走ってくれればな。そうだろう、アユリ?》
「みんなの期待が重い……」
カゲトラさんがフッと笑い、通信を切る。
スズネも《また後でな》と通信を切った。
《終了時間となりました。本日のウォータイム、終了します》
ウォータイム終了を知らせるアナウンスが鳴り、日暮先生から帰還命令が下される。
迎えのクラフトキャリアが私達三人の上空に現れ、降下する。
「勝ててよかったよ」
『相手の腕前がアルテミスのベスト8よりも無かったからね。勝利して当然さ』
当たり前だとミゼルは頭を抱える。
いやいや……それでも敵は皆ここに入学するために何度も公式大会を優勝してきた人たちですよ。ミゼルは弱いと思っても私は……。
《アユリちゃん、さあ乗って!》
《なにモタモタしとんねん!置いてくで?》
「ごめんね、今行くよ」
現れたタケルとスズネの通信画面に慌てて謝って、私はクラフトキャリアに乗り込んだ。
2015.09.10