先生方は拘束され、クライスラー先生が新しく学園長になった。なにをされるのかと不安になったけど、クライスラー先生は「今迄と変わらず、学園生活を謳歌してもらいます」と言っていた。
本当の戦争をしてもらう、と。
そして始まったのは、一日中、朝から晩まで監視される窮屈な生活。
至る所にワールドセイバーの兵士が立っていて、私達生徒や大人が勝手な行動を起こさないように目を光らせていた。
落ち着ける時間はダック荘の自室にいる時だけ。ストレスで禿げそうだ。禿げないけど。
「あ、アユリちゃん。おはよう……」
「おはようタケル。カゲトラさん」
「おはよう。顔色が悪いな」
「そうですか?」
ダック荘の玄関にて、いつものメンバーが集まった。何人かのジェノック生もいて、挨拶を交わす。
ミゼルにも言われた、顔色悪いって。行かない方がいいって。でも行かないと。いざというとき、ハーネスの皆を守らなくちゃいけないから。
「ホンマ訳がわからんわ。島を占拠までしといて、なあにが今まで通りのウォータイムやねん」
「やっぱ、私たちだけでテロリストに立ち向かおうなんて甘かったのかな」
鹿島さんが俯き、スズネはストレスからかイライラしていた。
出雲くんがマスターキーを奪取出来なかった俺のせいだ、なんて呟いたけど、出雲くんのせいな訳ない。
「ハルキはよくやってくれた。自分を責めるな」
「そうそう!総司令官、決まってたぜ!ハルキ!」
出雲くんに責任はない。あるとすれば、あの時クライスラー先生の青い機体をぶっ壊さなかった私に責任がある。
追い掛けたかったけど、言葉の通り煙のように居なくなったから追おうにも追えなくて。悔しさが滲む。
「そうだ、槙那さん。君に渡しておきたいものがあるんだ」
「ん?」
細野くんがこちらに歩いてきて、手のひらより少し大きいサイズのケースをくれた。
中身はなにかと聞けば、ドットフェニックスだと言った。槙那さんのドットブラスライザー専用の支援機だと。アラタのとは少し色が違うらしい。
「黄緑色が好きなのかなと思って、細いラインを入れてみたりしたんだ」
「ありがとう細野くん!」
そういうのって見てわかるものなんだな。
とりあえずタケルに預け、アラタに急かされてダック荘を出た。
「まだ俺達にできる事はある!」
「虎視眈々と機会を伺うんだね。アラタは出来なさそう」
「なんだよそれ!アユリもニガテだろ?そういうの!」
「まあね……」
待つのは落ち着かない。
自分から動くのが好きだし、攻撃は最大の防御って言うし。
「セレディの言いなりになる必要はない。俺達にだって、まだやれる事があるはずだ」
「こんな絶望的な状況で僕達に一体、何ができるんだろうね……」
「タケル〜。それをウチらで見つけるんやろ?いつものアンタらしくないで」
「そうだぞタケル。まだ俺達は負けた訳じゃない」
「うん。私達プレイヤーは、タケルの力を信じてる。だからまたいっぱい考えて、もう一度ボコボコにしよう?」
「ありがとう、みんな。そうだよね……まだ、なにか出来るはずだよね」
少しずつ元気を取り戻したタケル。
みんなで学園へ行く足取りは、いつもなら軽い筈なのに……今日はとても重かった。
2016.06.13