アラタの分のドットブラスライザーはその場で細野くんから渡され、それを手にしたアラタは目を輝かせた。
「サンキュー!恩に着る!」
私の人生じゃ“恩に着る”なんて言葉使わねえなと思いながら、微笑ましいアラタの喜びようを見ていた。
そんな時アラタが私を見つめ、「あとは俺達がオーバーロードを自由に発動できるようになるだけだ!」と言った。
それが一番難しいけど、自分の意思でオーバーロードを発動出来るようになったら、きっとハーネスもジェノックも飛躍的に戦力が上がる。
「みんなに朗報だよ。ドットブラスライザーの基礎概念を応用してその他の機体の強化や開発プランを作ったんだ」
タケルがCCMを操作し、画面を指でスワイプ。
モニターに画像が送られて、数種類のLBXが表示された。
「オーヴェイン、バル・スパロスの強化型……それに、フレームごとの新型機か」
感心したように頷くジンさん。その表情はとても嬉しそうだ。いつも無表情とかしかあんまり見ないから新鮮。
「ほんとタケル君はすごいよ。勉強になることばかりなんだ」
「何言ってるんだサクヤ君!メカニックみんなの力だよ!僕達はドットブラスライザーで手いっぱいだったから、みんなにだいぶ手伝って貰ったし!」
あ、そうなんだ。
周りを見ると私と視線が合うメカニックのみんな。
「気にしないで、私たちも楽しかったし!」
「“運命の輪”の正位置、成功と勝利の兆し。すでにトライヴァインとバル・ダイバーは開発に入ったわ。すぐに仕上がると思う」
ジェノックのリンコちゃん、キヨカちゃん、朝比奈くん、嵐山くん。
ハーネスのジョニーくん、フウちゃん、コヨミちゃん。
みんな、私達の知らない所で協力しあってたんだ。
「君たちに任せて正解だったようだ」
ジンさんも、隣に立つ美都先生も大満足みたいだった。
ウォータイム後のブリーフィングを終え、司令室を出る。
隣を歩くスズネとの会話の内容は、専ら夕飯についてだ。今日は確か、デザートにプリンがついていた筈。
「はあ〜!楽しみや!」
「私もプリン楽しみ。あれ手作りなんでしょ?すっごく美味しくてほっぺ落ちちゃうよね……!」
「わかるわそれ!なめらかで口の中でとける……アカンわ。思い出すだけで涎出てまう」
「おさえて!」
二人で盛り上がっていると、曲がり角で人とぶつかってしまった。
「わ、ごめんなさい!」
「いいえ!僕も前を見てなかったので、すみませんでした!」
灰色の制服……ロシウスか。背が低く、茶色の髪を上げた男の子。ぴょんと飛び出た黒い触覚が可愛らしい。
彼は「失礼します!」と綺麗でキレのあるお辞儀をして小走りで去っていった。
たった数秒間の間のやりとりだけど、彼がとても礼儀正しい子だということがわかる。
スズネと再び足を動かすと、後ろからさっきの男の子の声が聞こえた。「ムラクせんぱーい!」と叫ぶそれに振り返る。
あの子ロシウスの後輩くんかよ!
男の子に何か色々話す法条くんを見ながら歩いていると、彼の隣に立っていた褐色肌の女の子と目が合った。
やっべ、気づかれたわ。すぐに視線を外してスズネと早歩きでその場を離れた。
「ん?どうした、バネッサ」
「いや……ハーネスの生徒がこちらを見ていただけだ」
2016.06.02