Ringel blume | ナノ

―訓練兵団宿舎―

「ユカリー、準備できた?」
『うん、だいたいは。』

扉の向こうから聞こえるハンジの声に、雑巾を片付けながら返事をする。

エルヴィンに調査兵団へ呼ばれた次の日の朝、私は早々に荷作りと自室の掃除を始めた。…とは言っても元々荷物なんてそんなに無いし、部屋も大して汚れてなかったのですぐに終わってしまったけれど。


「君に、兵士長補佐として調査兵団に戻ってきて欲しい。」


エルヴィンの言葉に、あの時私は耳を疑った。

だって、普通は考えられないことだろう。一度は兵団を抜けた私を再び受け入れ、しかも前線から離れて久しいにも関わらずいきなり役職に就けるなんて、どう考えてもリスクの方が大きい。実戦で使えるか分からない上に、兵団内や、下手すれば外部兵団との均衡さえ崩しかねないはずだ。

そして、そんな危険なことをあのリヴァイ兵士長が納得するわけがない…そう思っていた。

けれど…

「…了解だ、エルヴィン。」

彼が告げたその予想外の一言で、私の異動はあっさり決定してしまったのである。


「…あれ、思ったより荷物少ないね。」

私が手にした荷物を見て、ハンジがぽつりと呟いた。

『うん、あの頃から何も増やしてないから。』

調査兵団にいた当時から、余計な物は持たないと決めていた。兵士になった以上いつ居なくなるかも分からない身だと思っているし、周りに余計な手間を掛けさせることは避けたいから。それは訓練兵団に移ってからも変わっていない。

だから、今もあるのは必要最低限の衣服と物だけ。

「ユカリは可愛いんだから、もっと服とか買えば良かったのに。」
『興味ないからいいの。』
「えー、もったいない。」
『何台も馬車連れて来なくて済むんだから良いじゃない。…よし、終わり!』

窓を閉めて、部屋の中を点検する。ベッドもきれいに整えたし、忘れ物はない…はず。

「まぁいいか。じゃあそろそろ行こう、外に馬車も待たせてあるしね。」
『はーい。』

ボストンバック一つに収まった荷物を持って部屋を出る。

この場所とも、もうさよならだ。


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