君の音色を | ナノ

それはだんだんと暖かい日が増えてきた、4月のある朝のこと。

「蓮さん。」
『はい?』

仕事のため他の兄弟から遅れてリビングを出ようとすると、ふいに右京さんに呼び止められた。

「明日は何時頃にマンションへ帰って来られますか?」
『明日、ですか?』
「はい。実は明日、久々に兄弟全員が揃いそうなので、夕方過ぎから井の頭公園でお花見をしようと思っているんです。」

そう話す右京さんの表情はどこか楽しげで、上機嫌に見える。

「なので出来れば蓮さんにも参加して頂きたいのですが、都合は付きますか?」
『あ…も、もちろんです!』
「そうですか!ああ、良かった。」
『少し遅れるかもしれないですけど…』
「構いませんよ。お待ちしています。」

そう言うと、綻ぶようににこりと微笑む右京さん。こんな風に柔らかく笑う右京さん、もしかしたらここに来て初めて見たかもしれない。

『ふふっ…』
「…どうしました?」
『いえ、嬉しいなって。』

お花見なんて、多分初体験だ。今まで世界を回ってばかりで、日本の季節なんて気にしたことも無い私には縁遠かった行事。それを新しく出来た家族と、当たり前のように経験させてもらえることが、何よりも嬉しい。

『楽しみにしてますね。』
「ええ、腕によりをかけて準備しますよ。」

ああ、やっぱり日本って最高だ!


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