君の音色を | ナノ

リビングでの一件があった翌日…

『…風斗くん?』
「んー?なに?」
『なぜ君が、昼間からここにいるのかな…?』

ほんの数十分、コンビニに行くため部屋を空け帰って来ると…なぜか私の部屋に風斗がいた。山のように積まれたDVDと一緒に、部屋の中を真っ暗にして。

「映画見ようと思って。」
『いやいや、もう見始めてるから。ていうか立派な不法侵入です。』
「いーじゃんキョーダイなんだし。」
『良くない!』

呑気に言う目の前の弟の言葉を、食い気味に一蹴する。いや、するでしょ普通!

「えー、なんで。」
『年頃の!しかも仮にもアイドルが!女の部屋に無断で入るとか何考えてんの!?』
「ちゃんとお邪魔しますって言ったよ。」
『そういう問題じゃない!』
「へーきだって。どこも開けてないし、見てないから。」
『当たり前でしょうがっ!!』

相変わらず口が達者な彼は、昨日のことなんてまるでなかったかのようにケロッとしている。それを見た私は、一人で悶々と考え込んでいた自分自身が馬鹿らしく思えてしまった。

「ねえ。」
『…なに。』
「蓮も一緒に見ようよ、映画。」

密かに溜息を吐いた私を知ってか知らずか、ソファに座っている自分の隣をポンポンと叩く風斗。…ああもう、なんなのこの子。自由過ぎてどこからツッコめばいいのか分からないんだけど。

『…人の部屋で勝手にくつろいどいてそれ言う?』
「仕方ないじゃん。僕んとこのテレビ画質悪いんだもん。」
『なにその理由。別にいいじゃない、最低限見れれば。』
「やだ。最高の状態で見なきゃ意味ないの。」
『あ、そう…』

まったく…アイドル様の考えは本当によく分からない。

「ほら、なにしてんの。早くおいでよ。」
『はいはい…』

もはや言い返す気力も失せて、私は風斗に言われるがままソファに座った。


[prev][next]