君の音色を | ナノ

『…これでよし。』

気持ちよく晴れた朝。

いつもと違う少し華やかなメイクと、ブルーのショートドレスに身を包んでサンライズ・レジデンスを出る。仕事以外でこんなドレス滅多に着ることは無いけど、今日だけは特別だ。

だって今日は、私の大切な人たちの、大切な日だから。


**********

『おはよう。来たよ、琉生。』
「…あ、蓮ちゃん。ちょうど良かった。」

午前9時。まだ開店前の琉生が働く美容室に到着すると、ちょうど先に来ていた絵麻のヘアメイクが終わったところのようだった。

『うん、似合ってるね。可愛い、絵麻。』
「ほ、ほんと?ありがとう。」

椅子に座る絵麻に声を掛けると、少し恥ずかしそうに微笑む。メイクの効果か、いつもと雰囲気が違ってなんだか大人っぽく見えた。さすがは琉生…。

「ありがとうございます、琉生さん。こんなに奇麗にセットしてもらって…」
「ううん。だって今日は、特別な日…だから。めいっぱいオシャレして、お祝いしないと…ね?」
「はい!」

そう、今日は11月23日。私たちの父麟太郎と、琉生たちのお母さんである美和さんの結婚式が行われる日。

式は午後から、都心の大きなホテルで行われる。休日だけど仕事がある兄弟もいるので、集合は会場。なので私たちも、セットが終わったらこのままホテルに直行する予定だ。

「蓮ちゃん…こっち、座って?」
『あ、うん。』

促され、さっきまで絵麻が座っていた鏡の前の椅子に腰掛ける。ふわふわと軽く髪に触れられていると、ふと鏡越しに琉生と目が合った。

「…あ。」
『ん?』
「メイク、してきたんだね。」
『え、そうだけど…やっぱり下手くそ?』
「ううん、そんなことない。すごく、上手。」
『ほんと?』
「ほんと。ドレスにも、ぴったり。」

にこりと微笑んでくれる琉生。その笑顔は優しくて、私もつられて笑顔になった。

「…うん、決めた。」
『決めた?』
「ヘアスタイル。…キレイにしてあげるから、待ってて。」

細い指で髪をすくうと、琉生は素早く手を動かしていく。そうして見る見るうちに、私の髪は奇麗にセットされていった。


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