君の音色を | ナノ

学生組の夏休みも終わりに近付いてきた、8月下旬…

『イベント?』
「うん。一緒に行かない?」

別荘から帰って来て以来体調を崩していた絵麻が、2枚のハガキを持って久々に私の部屋を訪ねて来た。

『いいけど…イベントって、何の?』
「えーっと…椿さんと梓さんが出演したゲームのイベントで、ゲストに二人が出るんだって。」
『へえぇ…』
「夏休み最後の思い出作りにお姉ちゃんとおいでって、椿さんが言ってくれたの。」

はい、と相変わらず可愛い笑顔で私にハガキを差し出す絵麻。受け取って裏を確認すると、確かにゲームのタイトルらしきものと特別招待券の文字、そして出演者の欄には椿と梓の名前が記されていた。開催日は…明日か。

『…うん、行こうかな。ちょうど休みだし。』
「ほんと?良かった!」

そう言うと、私の方に身を乗り出して嬉しそうに笑う絵麻。

思えば、ここに来てから絵麻と二人きりでちゃんと出掛けるのはこれが初めてかもしれない。この前水着を買いに行った時も、私の仕事が終わった後だったから結局ゆっくりは出来なかったし…。

『これは椿に感謝…かな。』
「え?」
『ううん、何でもない!』

独り言とにやけてしまう顔を隠しつつ、私はハガキをそっとテーブルに置いた。


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