君の音色を | ナノ

『………』
「なぁに?さっきから、そんなまじまじと見つめちゃって。」
『…いや、どっからどう見ても女だなぁって思って。』

右京さんが出勤した後、私はリビングでテレビを見ながら寛ぐ光をひたすら観察していた。

「そう?」
『うん完璧。』

抱きしめられた時の腕の硬さとか、胸のペタンコ具合からして男なのは明白なんだけど…これが女じゃないって言われると、何と言うかこの世の不公平さを感じる。私だって少しは頑張ってるつもりなのに…。

「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね。でも念のため言っておくけど、これ私の趣味なわけじゃないわよ?」
『え、違うの?』
「違う違う。これはあくまで仕事の為。」
『しごと…』
「ああ、別に怪しい方面の仕事じゃないから安心して。」
『いや、思いっきり怪しいけど…なんの仕事?』
「さて、何でしょう?」

にこりと微笑んで、それはそれは楽しそうに訊ねる光。そんな光を前に、私は頭を捻った。

だって女装してする仕事なんて、そんなの限られてない?


「ただいまー…ってあれ、蓮ちゃんとひーちゃん?」
「あぁ要、おかえり。」
『あ、要!』

どうしても可能性が一つしか思い付かなかった私は、調度よく帰って来た要に聞いてみようと考えた。ズルいって言われるのは百も承知。でも要なら、知ってるよね?

『ねえ。』
「ん?どうしたの蓮ちゃん?」
『光ってオカマバーにでも務めてるの?』
「…は?」
「ひーちゃんが…オカマバー?」
『うん、オカマバー。』

なぜか上着を脱ぎかけて、ぴたりと固まった要。

「……ぶはっ(笑)!!」

そして今度は、盛大に吹き出して笑い転げ始めた。…あれ、外した?

「ちょっと要!あんたちゃんと否定しなさいよ!」
「ふっ…あははっ…!ごめ、ひーちゃ…オカマバー…ぶふっ!!」
「…このイカレ金髪、そんなに踏みつぶされたいの?」
「ちょっ…ごめん、ごめんって!ちゃんと言うから!」

光に踏まれそうになってようやく笑いが治まった要は、呼吸を整えて私を見る。

「ふう…あのね、蓮ちゃん。ひーちゃんはこういう格好してるけど、別にそういう筋の仕事をしてるわけじゃないからね。」
『ほんとに?』
「うん。ひーちゃんのお仕事は、作家さんだよ。」
『作家…?』
「そ、ワタシ小説書いてるの。マイナージャンルだけどね。」
『へえ…』
「それでこの格好、取材に何かと便利なのよ。」

そう言うと、光はきれいな顔でニコッと笑う。その唇は、どこか怪しげに弧を描いていた…。

『一体どこまで多職なのこの兄弟…』
「ん?何か言った?」
『いえなにも。』


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