「寒ー…」
この凍てつく寒さに耐えきれずに思わず独り言を呟いた。発した言葉と同時に吐いた息は、すぐに白くなり消えていく。
冷えた手をポケットに入れれば、少しだけ暖かくなっている気になる。手袋をしてくれば良かったなと少し後悔をした。
ぴゅぅ、と吹いた冷たい風に、私はマフラーに顔を埋めた。
とぼとぼと一人寂しく歩いていると、前方に何やら見覚えのある人影。目を凝らして見ると、その人影は私の後輩、立向居勇気であった。
「立向居くん!」
「…あ、なまえさん。今帰りですか?」
うん、と返せば、そうなんですか、と可愛らしい微笑みを付けて返される。立向居くんとはよく話すし、よく一緒に帰ったりもする。今日みたいに帰り道でばったり会った時は、大体自然に普通に一緒に帰ることになるのだ。
ほら、私が歩こうと一歩踏み出すと、立向居くんも同じく歩き出す。もうそれが普通になってしまった。
「寒くないですか?」
「うーん、マフラーあるし、大丈夫」
「そうですか…もし良かったら手袋貸しますよ?」
「いいよいいよ、ありがとね」
「いえ、寒くなったらいつでも言って下さいね」
そう言って屈託のない笑顔を見せる立向居くんは、まるで子犬のようで可愛らしくて。私が立向居くんを弟のように可愛がっている理由の一つは、この笑顔なのかもしれない。
立向居くんの素直な性格と前向きな心とこの笑顔。それら全てを守ってあげたい。
しかし立向居くんは弟的扱いを受けるのが少し嫌らしい。動物の耳でも付いていそうでどうにもぽふぽふと撫でたくなる頭を撫でると、抵抗はしないものの少し複雑そうな表情をする。
一度「俺はそんなに子供じゃありません」と怒られたことがある。でもやっぱり思わず弟のように扱ってしまう。年下は年下だもん、仕方ないじゃん。
「いつもキーパー頑張ってるね」
「はい!もっと強くなって、円堂さんみたいにフットボールフロンティアで活躍したいんです!」
「円堂さん、ねぇ…。無理はしないようにね?」
「無理しないと強くなれないですよ!」
「無理して体壊しても強くなれないよ?」
「あ…確かに」
サッカーの話をすると必ず出てくる「円堂さん」。フットボールフロンティアをテレビで見ていた時、確かにすごいキーパーだと思った。立向居くんはその円堂さんに憧れてキーパーになったという。また話をする時のキラキラした憧れの目が、本当に真っ直ぐで。
「頑張れよー!」
「わぁ!止めて下さいよ!」
頭をわしゃわしゃと強く撫でれば、立向居くんは言葉だけで抵抗した。行動では抵抗しないのを良いことに痛くない程度に更に大きく手を動かすと、立向居くんはまた止めてと制止の言葉を掛けた。
「ちょ、もうなまえさ…、あ」
「? どうしたの…あ!」
いきなり立向居くんの動きが止まったのを不思議に思って立向居くんと同じく上を見てみると、
「雪だ!」
見上げた空からふわふわと舞い降りるのは、雪。白く冷たい雪がふわふわと舞って、地面に着いた雪は時間を掛けず溶けていく。流石に積もりはしないか。
「やっぱり溶けちゃうんですね…」
「でも見てよ、いっぱい降ってきたよ!」
「なまえさん、髪の毛に沢山付いてますよ?」
「立向居くんだって!」
お互いに顔を見合わせてあはは、と笑い合う。
何だか、私も立向居くんのことを年下だ年下だって言ってばっかいられないな、なんて思ったり。
「雪だぁー…あ、そうだ立向居くん!」
「何ですか?」
「いっぱい雪積もったらさ、一緒に雪遊びしよう!」
「え…あ、はい!」
立向居くんは、最初は少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつもと変わらない可愛らしい笑顔になった。
やっぱり立向居くんはこの顔が一番だなと、そう思った。
「約束ね!」
ゆきやこんこ
その約束が果たされる時が
すごく楽しみで
まだまだ自分も子供だなって、
悔しいけどよく分かりました
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