「・・・っはぁ、はぁ」


寝坊した。


なんとか家から猛ダッシュして、チャイムが鳴る前に教室の自分の席に着くことができた。


「なまえおはよう!!
遅刻なんて珍しいな。・・・なんかあったん?」


疲れて机に伏せっていると、隣から彼の声が聞こえた。
勢いよく顔を上げ、声のした方を見ると謙也君が心配そうにこちらを見ていた。

不意に心臓が大きく跳ねる。


「ううん、違うの。
たまたま寝坊しちゃって・・・」


言えない。

謙也君宛てのラブレターを書いて、どうやったって渡そうか悩んでたなんて・・・。





私は転校生だった。

転校初日、緊張して戸惑っていた私に謙也君は明るく話しかけてくれた。
そして彼は明るくクラスの人気者で、自然と人の輪の中へ引っ張ってくれた。


笑っている顔、真剣な顔、彼のコロコロと変わる表情に私はいつしか胸を高鳴らせた。

そして私は彼に恋をしていた。




だから私はこうして私は告白する決心をした。














―――――――――













放課後



今日は委員会があって部活がある人は早々と部活動へ、委員会がある人は委員会へと向かった。

私は委員会に所属していなくて、部活も休み。


しかし私にはやらなければならないことがある。


とりあえず人がいなくなるのを教室で待つ。


人がほてんど移動したのを確認し私は下駄箱に向かった。
周りに人がいないことを確認し、さっと謙也君の下駄箱に手紙を入れた。


・・・届け、この想い。


祈るよう下駄箱の前で手を合わせ、自分の下駄箱に向かう。
しかし靴を出そうとした瞬間、教室に忘れ物したことに気づいた。


私は教室へ走った。











教室に近づく頃、人の声が聞こえた。


「謙也のことが好きなん。
せやから、うちと付き合ってください!」


ドアに手をかけようとした瞬間、聞こえてしまった。
咄嗟に顔を伏せる。




・・・嘘、でしょ?


「・・・俺も、めっちゃ好きや。
俺もよろしく」


嬉しそうな、幸せに満ちた謙也君の声が耳に刺さった。



あぁ、だめだったんだ、私。



私はそのまま教室に入らずに下駄箱に戻ってきた。
さっき入れた手紙を取り出す。


あんなに幸せそうな謙也君にあげられない。

ううん、あげたくない。



私は屋上へと走った。


頭の中がゴチャゴチャで、いつしか頬は冷たく濡れはじめていた。
なりふり構わず走っていたせいで、曲がり角で人とぶつかった。
転ぶと思って、無意識に目を瞑る。
しかしまったく痛みはおとずれない。
おそるおそる、目を開くと同じクラスの白石君に抱き締められていた。


「・・・なまえちゃん」

「・・・ご、めん」


私は無理矢理白石君の腕を押し退け、再び屋上へ走り出した。



白石君の優しい瞳を見ていたら、謙也君を思い出した。
まったく違う人なのに・・・。



痛いよ、苦しいよ。





屋上の重い扉を開けると、どこまでも青く澄みきった空が広がっていた。

私は手紙を小さく、小さく千切った。

読めなくなるくらいに。

想いをバラバラに。





千切り終わって少ししたら、強い風が吹いた。
その風に、届けられない想いを飛ばす。


「好き、さよなら」


何度もその言葉を涙と共にこぼしながら。







「好き」「さよなら」を繰り返す






  
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