<マスター シーンU>







歪な形をした翼を引き摺るように、覇王は磨き上げられた廊下を歩いていた。

闇夜を照らす豪奢な灯台は数日前に倒されたまま火が灯される様子もなく、暗い通路を照らすのは風の通りを考慮され大きく作られた窓から差し込む、白銀の月明かりだけだった。

日が沈み徐々に失われていった温度は今やいずこかへ消え、月明かりが反射する床の冷たさを、覇王は一歩毎に感じていた。そしてその歩みとともに、翼はばらばらと形を失ってゆく。

苦痛の表情を滲ませながら覇王がたどり着いたのは、無駄に煌びやかな寝台と大きな窓がある部屋だった。その部屋から見える街の風景に人の気配はなく、死臭と、悪魔の声だけがある。

それらに覇王は興味を示さず、仰向けで寝台の上に倒れ込む。崩れかかっていた翼は跡形もなく形を無くし、黒い羽根がゆらゆらと宙を舞った。緩慢な動作で腕を上げ、自らの首に手を伸ばし、黄金の装飾品に指をかけた。


「外してしまうのかい?それは君が王である証なんだよ」


二つの声帯が同時に言葉を発したような、奇妙な声だった。耳元で囁かれた言葉に覇王は動作を止め、再び腕を放り出す。その様子に声は、嬉しそうに微笑んだ。


「それでこそ、覇王だ」


奇妙な声の気配が消えると、部屋の空気に静寂が戻る。己以外に誰も存在しないことが分かっているからこそ、覇王は口を開いた。


「俺はこの力で、全てを、この世界を破壊する。そして、」







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