<オープニング フェイズT>
砂漠が広がる広大な土地、ナイルがもたらす恵みと共に生きるその国の王宮に、一つの言伝が舞い込んだ。
玉座に座る王は側近からその言伝を告げられると、まだ若い顔の眉間に深く皺を寄せる。
「それは、本当なのか?」
低い声は、僅かに震えていた。表情の変化に乏しく、無愛想だと囁かれる彼の声が。
「ええ、残念ながら……辺境の地で侵略行為を行っていた一団は突如として勢力を増し、王宮に向かっているとの情報が、兵から、」
「そのことではない。」
静かな声でそう遮り、王は玉座から立ち上がった。光を取り込む高い窓から夕日が差し込み、歩き出した彼の顔を赤く染める。黄金の装飾品が揺れ、橙色を反射した。
「ファラオよ、どちらへ!」
「軍の指揮を指示してくる。その後は部屋に戻らせてもらう」
王の間を後にし、兵の指揮を信頼できる神官に任せたのち、王は早足で歩く。そして自室に入るなりすぐに扉を閉じ、もたれかかった。目を閉じ長い息を吐いて、呼吸を整えてから外を見る。いつの間にか空は暗く、僅かに星が瞬き、街には明かりが灯り始めているのが分かった。
彼は王だ。だからこの街を、この国を守る必要があった。否、守るために存在していた。だが、彼の脳裏には遠い日の情景が浮かんで離れない。
「……すまない」
王であることを示す黄金の装飾を一つ一つ丁寧に外して、服の中に隠すように下げていた銀色の細い鎖を掴んだ。鎖に繋がれていたのは、カルトゥーシュを模した小さなアクセサリーだった。
髪や顔を隠すように木綿の衣を頭から被り、見晴らしのいい窓から外へ飛び発った。宙を舞う彼の腕に嵌められた召喚術の媒介が、声に応えて光る。
「スターダストドラゴン!!俺を連れて行ってくれ!」
出現した星屑を纏った竜は、いまや王という立場を投げ捨てた一人の人間、遊星を乗せて飛び上がった。
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