※遊星





外に出て宛てもなくふらふらと歩く。
ここ最近ずっと灰色で、いい加減に雲も重量感を増してきていた空から、ついに雨が降り出した。このぐらいの雨なら大したことないと、湿った空気の中で足を進める。
意外と、冷たいわけじゃない。

マーカーの上を、雨水が滑り落ちる。顔の皮膚を焼いて刻まれたそれのせいで、一部的に感覚が死んでしまっているらしい。頬の上から一瞬流れが消えてしまう。
せっかくこんなに暖かい雨なのに。

いつの間にか水分を含んだ前髪が視界を遮る。特に目的もないから、前が見えなくても構わないような気がした。少し歩きたかっただけで、


あ、


バランスを崩して前のめりになった身体を、立て直そうと込めた力が空回る。派手に倒れると金属と金属がぶつかり合う音が耳元で騒がしかった。身体中が痛い。薄く目を開くと、山の潰れたネジが見えた。なる程、ジャンク置き場か。

安心感を覚えて目を閉じた。













 体感温度













そいつはジャンク置き場で眠るように倒れていた。しかも半分程埋まっているのを、偶然オレが見つけたのだった。



行く宛てがないならDホイールの部品になるものがないだろうかと、いつもの習慣でオレはここに足を運んだ。先生からは安静にしていろと言われているのだが、動けるのだから大丈夫だろう。

目を盗んで外に出てきたのはいいが、この身体で遠くまで歩くのはさすがにつらい。ふらふらと歩き回って、自然と近場のジャンク置き場に足が向かっていたのだ。そして、そいつが居た

サテライトは厳しい場所だ。色々な理由で、ぼろ雑巾のようになった人間が捨てられていることは、多くはないが、無いわけではない。
だからこいつ程度の怪我で倒れている奴が居たとしても、そのままにしておく場合が多い。


「……大丈夫か?」


だが、無視することは出来なかった。何故なら、こいつはどうみても。


「……、ああ」

「どこが大丈夫なんだ?目も開けない程衰弱しているんだぜ。お前」


掠れてはいるが、聞き覚えのある声だ。確信してしまった。
ジャンクを退かし、そいつの腕を引いてオレの身体で支える。どうやら発熱しているらしいが、怪我は酷くないようなので、支えれば先生の所まで連れていけるだろう。意識が朦朧としているのか、ここまで顔を近付けても、こいつはまだ気がつかない。


「お前を手当てできる場所まで連れて行く。一応聞いておくぜ、名は?」

「……不動、ユウセイだ。すまない……」


オレはオレと同じ名前の奴に謝られてしまった。

自分と同じ体格を支えて歩くことは予想したよりも大変だった。なんとか病院に辿り着くと、オレの姿を見つけたセクトが走ってきた。走れるようになったんだな。良かった。


「アニキ!先生は安静にしてろって……!!」

「セクト、すまないが、こいつを運びたい。動けるようなら手を貸してくれないか?」

「え、そいつ……アニキ!?」


驚きながらも手を貸してくれる、セクトはいい奴だ。さすがオレのライバル。





目を開くと俺の顔が覗き込んでいた。目が大きく見開かれ、口は結ばれている。俺は今ようやく呼吸が少し整ってきたところなので、口は少し開いているはずだった。鏡にしてはおかしい。何より、顔が横を向いている。


「……何を、している?」

「オレと同じ名前の奴が、突然叫びだしたことに驚いてるところだ」

「睡眠をとると悪夢ばかりなんだ。驚かせてすまない」


起き上がって辺りを見渡すと、見覚えの無い部屋の中だった。壁のコンクリートが所々ひび割れているものの清潔で明るい部屋だ。窓ガラスの向こうは暗く、大粒の雨がひっきりなしに叩きつけている。そう言えば雨音が酷い。

同じ名前だという男に此処について尋ねると、サテライトだと返ってきた。それからジャンクの山に埋もれていた俺を見つけたのだと言いながら服を寄越した。着替えろということらしい。雨で水浸しになっていたので、好意に甘えることにした。


「ありがとう」

「……」


同じデザインの服に着替えてから、改めてその男を見た。俺と同じ位置のマーカーは、よく見ると形が微妙に違う。しかし、それ以外の違いが見当たらない。


「……」

「……」


腕を組んで俺を観察している姿は、見れば見るほど俺だ。相手を探りながら思考し、考えをまとめる。その過程では言葉を発することはない。だからこうした明らかに不可思議な状況だというのに、雨音がフィールドを支配してしまっていた。


「お前は、どんな決闘者なんだ?」


しばらくして口を開いたのは、俺ではない不動遊星だった。
デッキに手を伸ばし、俺の仲間たちを思い浮かべる。


「ジャンクデッキを使う」

「……面白い」


目の色が変わったのが見えた。と、思った瞬間、デュエルディスクが飛んできた。掴んでから顔をあげると、俺に寄越したものと同じ型のディスクを腕に装着した不動遊星が居た。


「デュエル……するのか?」

「ああ、同じジャンクデッキだろ?……燃えてきたぜ!」


雨で冷えていた身体が、中から暖まっていくのを感じる。目の前の男が誰か、そんなことはどうでもよくなっていた。きっとデュエルの中で、わかることだろう。


「「決闘!!!!」」





―――――― 熱い。






……………………………………

アニメ遊星さんは守りのジャンクデッキ。フィールさんは装備のジャンクデッキ。
そんなイメージがあります。見てみたい。




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