※十代と覇王





ぽーん。

いとも簡単にその身体は宙を舞った。ああ、オレってこんなにも軽かったんだ。十代は考える。なんて、軽い。

もっとていこうしろよつまらないだろ?

どさっ。

再び地面に投げ出されて、衝撃は身体全身に響いた。脳を揺さぶる。怒りと憎しみと悲しみと苦しみの声が聞こえる。

ああ、

このままこのモンスターになぶり殺されるのも、全く悪い事じゃないのかもしれない。このまま、終わればそれで正しい。きっとそうに違いない。

あそびあいてにならないのならつぶしてやるよ

重圧で骨が軋む。肺が空気を求める。無理だ。痛みが雑音をかき消して、思考が明確な答えを示す。簡単な事だ。応えろ、オレのデッキ!

「オレのターン!!」

無理やり声を上げて、這ったままディスクのカードを引き抜く。手札を確認し、モンスターカードを掲げた。

「E・HEROバーストレディを、攻撃表示で召喚!」

おもしろいひねりつぶしてやろう

立ち上がって、闘え。相手を見て、見定めろ。如何にして、勝利を掴み取るのか。簡単だ、いつもと同じさ。負けたら悔しいし、勝ったら嬉しい。だから全力で闘うんだ。さぁ、楽しいデュエルにしようぜ。

「ドロー。O−オーバーソウルを発動」

カードから浮かんだ黒い炎が円を描いた。戦闘破壊されたバーストレディがフィールドに舞い戻る。

そんなざこをふっかつさせてなにになるんだ?

「E・HEROバーストレディを生け贄に捧げ、いでよ、E-HEROマリシャスエッジ!」





 呼吸





覇王はその禍々しい城の中で、暗雲が覆う空に視線をやったまま、背後で膝を折る配下に命令を与えた。
言葉少なに伝えられた指令はその下につく者に指示を授け、それは確実に多くの命を消すだろう。
無慈悲なお方だと、誇らしさで緩む口を隠すように一礼し、魔物の配下は部屋を出て行く。

残ったのは、一つの肺が、酸素を取り込むための音。

覇王は浅く呼吸する。それは身体が生存のため、求めているからに他ならない。いくら風が吹き荒れようと、遠くから悲鳴が舞い込もうと、ただ一人義務的に繰り返す空気の循環が、肺の収縮が、肋骨の振動が、彼の鼓膜に響く音の全てだった。
そしてそれは軋む音だ。

覇王十代が最初の獲物を倒す時に負った身体的ダメージは深刻なものだった。それは彼らしからぬ躊躇いから受けたものだが、覇王はそれを否定しない。
否定したところで覇王の目的が叶う訳でもなく、障害が多少存在していたからと言って目的を見失うはずもない。



報告を背で聞き流した覇王は、黒く重い鎧を纏った身体を動かし、糧とされる決闘者の元へ向かって踏み出した。全身の骨が筋肉と剥離するかのように痛み、悲鳴をあげる。
しかし身体の主である覇王は眉一つ動かさず、関心も持たない。彼の目には生贄となる対戦相手だけが映っていた。

攻撃宣言でライフポイントが尽きると、膝を着いた人の形が崩れていく。覇王は腕を下ろし、光の粒が消えて行くのを眺めた。無理やり動かされていた腕が緩み、息を吹き返す。
ガタガタと震えた次の生贄が用意されると、ディスクを構えるために腕に力を込めた。割れた骨が筋肉に突き刺さったように思えた。



覇王が手札から一枚のカードを引くと、嗜虐的に笑う悪魔族がフィールドに現れる。モンスターを前に恐怖した生贄の手からカードをばら撒かれ、その瞬間に勝敗は決した。とどめを刺した悪魔が名残惜しそうな表情を残して消えると、光の粒も消滅する。
デッキの中で静かに眠る白紙のカードが、鼓動のようにとくんと蠢くのを感じた。

もうすぐだ。

喉の奥でそう呟くと、僅かに震えた肺に痛みが走る。だが覇王はそれを気に止めることはない。
彼が覇王となった時、痛みは既に在ったのだから。





遊城十代は完成したそのカードを自らのデッキに入れた。彼には倒さなければならない敵がいる。そのためなら、どんな力も使うつもりだった。
そして十代はようやく立ち上がる。

身体の何処にも痛みは無い。










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「覇王城再建計画」様に参加させて頂きました。
素敵な企画をありがとうございます!




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