※GX三期、十代と覇王
※あたまがおかしい
「すっげー!」
眼下に広がる炎に、遊城十代は声を上げた。
しかしその声を聞くことができるのは、瓜二つの顔をした彼一人だ。半透明の十代が身を乗り出し、炎を仰ぐ様子には目もくれず、彼はただ無表情に金の目を光らせていた。
金の目に映るのは、どこまでも続いているかのように錯覚さえ覚える、広大な炎の海。数時間前までそこに暮らしていた人々の跡を、消し去らんとするかのごとく煌々と威力を増し続けていた。
覇王と呼ばれる彼が目的のために潰した命は、火の粉に混じる細かな光となって昇る。意識を向ければその光が、まだ昇り続けている様子を見ることが出来た。ごう。風が揺れたのと同時にまた、一塊の光が炎から浮かび上がる。
「おぉ!すげーな、綺麗だ!!」
傍らの十代はその光に感嘆の声を上げて笑う。しかし覇王は何の変化も表さない。少なくとも言葉にするほど、光に何かを思うようなことはなかった。
「ほら、光も煙もみんな空にあがってくぜ」
反応を示さなかった覇王が不満なのか、十代はそう続ける。覇王は何も返さないが、ともに視線を上げた。黒い煙が、暗い空へ向かっていく。煙に紛れていた極細かい光が、こんどこそ掻き消えた。
半透明の姿で笑う片割れと、寸分違わぬものを見ているはずだった。しかし覇王は何も思わない。
視界は共通している。それだけではなく聴覚も、触覚も、嗅覚も、共有しているはずだった。身体は一つしかないのだから。
隣り合っているような気がするのは、どちらかが作り出した幻覚だ。
「なぁ……」
弱々しく語りかけたのは自分自身。強さを求める自分がそんな言葉を聞いてくれるはずもない。ヒーローはいつも強くなくては。弱い自分は隠すべきだ。そんな自分は存在しちゃいけない。
その証拠に十代は煙から目をそらすことが出来ない。それは身体の主導権を握る覇王という十代が、そんな弱い己を見ることを許さないからだ。
正確にはそう、十代が考えたからだ。
「でも、やっぱりこの炎はすげーよ。綺麗だ」
未だに燃え続ける炎に、視界を戻す。そして再び十代は笑った。覇王は何も思わずただそれを眺めている。
「いこうぜ」
感嘆して笑うのも、無表情に眺めるのも、そこに違いがあるように思えるのも、全て、ただの錯覚でしかない。ここには「遊城十代」がただ一人でいるだけなのだから。
「ああ。」
共感も、相違も出来やしない。