「住めば都。そう言うけどね、都は人の手によって生み出されたものなんだよ。分かり難い?じゃあゲーム。ボク達の得意分野で例えよう。キミはベッドで目覚める。部屋の外からキミを呼ぶ声がする。ここでキミは選択肢だ。声に従って部屋を出るか、部屋の中を調べてみるか、はたまた何もしないのか。もちろんこれはゲームだから、部屋の外に出るを選択しないとキミの物語は始まらない。それどころか、ここが何処なのか、キミが何者なのかすら分からない。つまりね、ボク達は行動してフラグ、システム的にはスイッチかな…をONにしてかなきゃならない。プレイヤーは物語の目的を知りにいったりしなきゃならない。でもボク達はプレイヤーじゃないし、これは物語じゃない。だから目的はたぶん決めていい。」
「それで、相棒はどうしたいんだ?」
「ここを快適にしたいな」
「じゃあ何を」
「家を作ろうと思うんだ」
そりゃあスケールが大きいな。さすが相棒。オレには思いつかないようなことをいとも簡単に考え、そして実行する。
さっそく見覚えのある机の上で、何やら紙に書き始める相棒。邪魔しないようにオレは黙って背中を見ていることにした。
「キミってさぁ…」
「ん?どうしたんだ?」
「ガン見スキル高いよね。前から」
突然振り返った相棒はやや硬質な声でそれだけ言うと再び作業に戻っていった。
大丈夫だ。……褒められた訳で無いことぐらいは分かっている。
「お、楽しそうなことをやってるじゃないか。俺達も参加させてくれないか」
「相棒の邪魔をしなければ構わないぜ。……アテ」
「ファラオでいい。いや、そう呼べ。紛らわしいだろう?な、王様」
「……お前にそう呼ばれるのは、さすがに矛盾じゃないのか?」
鏡を見ている気分になる。肌の色こそ違えど、そいつの姿はオレに似すぎていた。
「だからなぁ…」
褐色の腕はここまで抱えてきたものを落として広がる。落ちたものに目を向けていた一瞬の間に、オレはその腕の接近を許していたようだった。
突然目前に現れたそれに、反射的に目を瞑る。
「そんな事に悩むより、他のことを考えろよっと」
額に痛みを感じながら目をあける。わざわざしゃがみこんで目線の高さを合わせた王は満足げな笑顔を見せていた。デコピンをクリーンヒットさせたことがそんなに嬉しいのか。
……おそらく今、オレとこいつは全く違う顔をしているのだろう。
「貴様は、オレ、の、心の領域を…おかした。よっ、て……」
そこまでようやく言ったところで派手に咳き込み、元から荒かったそいつの呼吸はさらに荒くなる。
肩で息をしながら地面に張り付く身体を必死に起こし、ぎらぎらとした眼は王を睨む。しかし、額に浮かび上がった目の光が心なしか弱く見えた。
「何やってるんだ魔王?そんな所に転がって。お、ウィジャトが消えたな」
「貴様…がっ、」
オレの首を絞めながらここまで連れてきたんだろう!と、いうようなことを言いたかったのだろうか。
息絶えた様子を見て、寝たのか?などと言いながら王は相棒の方へ目線を移していた。
確かに考えるべきは、こいつの無意識なサディズムからオレ達の身を守る方法なのかもしれない。
……相棒!!
「ほぉ、じゃあこれから家を作るというのか?」
「ボクの考えに間違いが無ければ問題はないと思うんですけど……とにかくやってみようかなと」
「だが相棒、作ると言っても一体どうやって作るんだ?オレには想像もつかないぜ」
「理屈はいつもと一緒だよもう一人のボク。キミがこの前クロロホルム出したのと同じ。あれから何度か試して確かめたんだけど、ボク達がアイテムを出現させるときに必要な条件は“イメージできること”つまり、そのものの詳しい構造とかは要らないみたい。だから理屈の上では家だって作れるはずだよ。流石に大きいからイメージしやすいように紙に書いたけど」
そう言って自慢気に巻いた紙を振る相棒。……の頭に触ろうとしたファラオの手を、オレはオレに出来うる限り最速の動きで打ち落とした。ドローで鍛えられた腕がこんな所で役にたつとはな。
「さて、この世界を快適に出来るかな?みんなちょっと下がって」
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タイトルは某ラノベから。
史実王の二人称は基本的に愛称。
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