※W遊戯と遊星とOCG
二人の遊戯が何もない空間を歩いている。
会話は強い口調でされているようだが、隣り合いお互いが歩調を合わせている様子を見ると喧嘩をしている、という訳では無さそうだった。
「だ、か、ら、ね!最上モンスターをそんなに入れたら事故るって言ってるでしょ!?」
「しかし強力なモンスターを減らせばデッキ全体の攻撃力が下がるぜ?なら、特殊召喚の方法を増やしてサポートすれば……って、どうしたんだ相棒?」
突然立ち止まった遊戯に、もう一人は問い掛ける。
凝らした視線は動かさないまま、遊戯はその方向を指で示して言う。
「あれ、人だよね?……倒れてない?」
もう一人も釣られて目を凝らす。少し離れているが人であることは確認できた。
「……ああ。だいぶ癖のある髪型だが、人のようだな」
「キミも人のこと言えないけどね」
何か言おうと口を開いたもう一人を無視して、遊戯は紺に金色が入っているという不思議な色の髪を持った人物の方へ走り始める。
それは相棒もだぜ。と、言い返すために用意した言葉を飲み込んで、もう一人も走り出した。
うつ伏せに倒れていた青年を二人でそこら辺にあったソファーに運んで乗せ、自分達は存在しない地面にそのまま座り込む。
「寝てるだけみたいだな。……起きる気配な無いが。相棒、どうする?」
「うん…運に任せたデッキがいかに脆いか教えてあげるよ」
遊戯は立ち上がり、ソファーに寄りかかっているもう一人と向かい合う位置に座り直す。
その動きを目で追いながら少し呆れた様子で息を吐いた。
「放置か…」
「どうせ起きそうもないからね。ほら、早くシャッフル」
「しかし…」
言葉を濁しながらソファーの上で泥のように眠る後輩を横目で見ていると
「じゃあ、これならいい?」
という言葉と同時に、毛布が頭の上から落ちてきた。視界が遮られ、重量を感じる。
「……そうだな」
くぐもった返事をしてから毛布を剥がし、寝息を立てている青年に掛ける。
本来彼はここに来てはいけない人物だ。だが、何の間違いかここに居る。
ならば、ゆっくりと休ませてやればいいだろう。彼にはこれからも辛いことや大変なことが襲いかかってくるのだろうから。
「オレは応援してるぜ」
小さく呟いてからもう一人の遊戯は、デッキを取り出し相方に向き直った。
「……くっ、カードを一枚セットしてターンエンドだ」
「じゃあボクは君のエンドフェイズにサイクロンを発動。セットしたカードを破壊!」
「聖なるバリアミラーフォースを破壊、か。さすが相棒、いい読みしてるぜ」
「なるほどエンドサイクか……」
上半身だけ起こし決闘を眺めていた遊星は、その容赦なく見事なカード捌きに思わず声を上げた。
単純な効果のカードだからこそ使い方は様々であり、難しい。しかしそれを考え得る限り最高の扱いを、目の前でやってのけたのだ。かなりの腕であることは間違いないだろう。
「あ、おはよう。よく寝てたみたいだけど、大丈夫?」
遊戯はカードを手札に加えてから下に置き、決闘相手の後ろで知らない間に起きあがっていた遊星に話し掛ける。
「ああ、問題無い。だが、ここは…?」
中断してしまった決闘から目を離し辺りを見渡せば、自分の置かれている状況が異質であると初めて気づく。
現実味のない、ただ白いだけの空間。ごく普通であるが故に異質なソファー。その上に寝かされていた自分。
ならば、
「これは夢か…」
「そう思ってても大丈夫だと思うけど、何でこんな所にいるのか検討つかない?ほら、直前の記憶とか」
帰れないなんてことになったら大変だからね。遊戯はもう一人に目でそう伝える。
もしもそんなことになってしまったら、本当に恐ろしいことだ。もう一人は頷き、この青年を元の場所に戻す手伝いをすると誓った。
「確か……WRGPのために新エンジンの開発をしていた」
遊星は言われた通りに記憶を辿っていく。修理屋の依頼でソリットビジョンが映らなくなったというデュエルディスクを直した後は、エンジン開発を再開していたはずだ。
「……それだけか?」
「ああ」
「じゃあその開発作業はいつから?」
「三日前だな」
「……ずっと?」
「ああ」
「最後に寝たのは?」
「三日前だ」
「ちゃんと寝なさい」
「断る。時間がないんだ」
「断る。寝ないなら寝かせるまで。アテム!今だ!!」
「!?」
「……許せ!」
何も無い空間に水音が響くいた。
遊戯との会話の間に隠れてソファーの裏に回っていたアテムと呼ばれた少年の手には、空になった薬品のビンがあった。中身はいつかのクロロホルム。
彼はその存在を知識として知っていた。だからここでは“出現させることができる”。
しかし、有効的な使い方は分からなかったため、そのまま液体をかけて口を自分は押さえたのだった。
「これで良かったのか相棒?」
「大丈夫だよ。もう寝息たててるし。かなり疲れが溜まってるみたいだから、休ませてあげるのが一番だと思うよ。強制的にでも」
そう言いながら笑う自分の相方に、背筋が少しばかり冷たくなった。
罰ゲーム知識羨ましいな。などと言い始めた遊戯からなんとか話題を逸らそうと関係の無い話題を探すが、一つしか思いつかない。仕方なくそれを聞くことにした。
「相棒、何故オレを、その名前で…」
彼には、取り戻したはずの記憶がない。
記憶がないと言うことは、確証がないということだ。
ファラオであったことに確証はなく、あるのはあの壮絶なゲームの中で与えられた役割がそれだったという記憶のみである。
その名前は、玉座で眠りこけている、あいつのものじゃないのか。
「それはね、見えちゃったんだよ。キミの手札が」
言葉を断ち切り、遊戯は静かに言う。
「キミの手札には冥府の使者ゴーズがあった。ボクがサイクロンで聖なるバリアミラーフォースを破壊したことで、キミのフィールドは空。だからボクの攻撃でゴーズは特殊召喚される。つまりね、」
言葉を一旦区切り、何かを思い出すかのように遊戯は上を見上げた。それから大きな眼を、同じ色をした眼に合わせる。
「ボクとそんな決闘を繰り広げられるのは、闘いの儀で闘ったアテムでしか有り得ないんだ。ファラオかどうかは関係なく…ね。分かった?もう一人のボク?」
向き合った同じ色の二つの眼は、数回まばたきした後、笑い声と共に細くなった。
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蟹さんはトリップするぐらい寝てないとこっちにきちゃうそうです。
あと遊戯さんはデュエリスト。
09.10/
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