※時間軸は「赤」シリーズの後。
※遊戯と闇遊戯。
※少なくともほのぼのではない
キミが弱音を吐いたような気がした。辛い、苦しい、逃げたいと、そんな感情をごちゃ混ぜにして、何か言ったような気がしたんだ。
「何か言った? もうひとりのボク」
ボクはキミの顔を見ないように、なんの気もなくただ尋ねるといった体で問う。手を止めずに、顔もあげずに。
もしもキミが泣いてでもいたら、ボクはどうしていいのか分からない。
ミラーゲーム
「何でもないぜ、相棒。次の手に、迷っていただけだ」
ボクらが広げているのは、カードではなく和風チェスの駒、要するに将棋だった。
この謎空間から人が一人減ったあとだというのに、ボクらはまた以前と何も変わらず、ゲームを……いや、暇潰しをしていた。他にすることが思い付かなかったからだ。
もう一人のボクの手が、駒の前で完全に停止する。
始めたばかりでまだどちらの駒も欠けておらず、選択肢が多くて迷ってしまうのは、わからなくもないけれど。手が止まるほど迷うには、まだ早いはずの状況だった。
「どうかしたの?」
「すまない、相棒。これしか思い付かないんだ」
ボクに急かされて(正確にはボクに急かされたと思い込んで)、もう一人のボクが駒を動かした。なんの変鉄ないただの歩兵の一歩前進。ボクは首を傾げながら、飛車を主戦場に送り出す。
「なにを謝ってるんだか、さっぱり」
「これで、わかる」
次の手はちゃんと早かった。そして、もし一人のボクが言いたいことの意味も理解する。
何にしたって、キミは気にしすぎなんだよ。
そう笑い飛ばしてしまおうと、久しぶりに顔をあげた。
もう一人のボクは、笑顔、のようなものを浮かべていた。
「相棒、それは作り笑いだぜ?」
「キミだって、作り笑いじゃないか」
お互いに指摘しあって、全く同じタイミングでため息をついた。全くひどい茶番だ、ゲーム内容も含めて。無言のうちにゲーム終了を了承しあって、鏡写しの布陣を乱暴に崩す。
「だから言っただろう。相棒と同じ手しか、思い付かないと」
「心理フェイズも、ね」
将棋の駒達を一度箱に収めてから、将棋盤の中央に上下逆さに置いた。どうぞ、と手振りで促すと、もう一人のボクはうなずいてからそっと箱を取り外す。
将棋盤の上に、駒の山が出来上がる。始まるのはもちろん、音を立てないように注意しながら交互に山を崩していくゲーム、将棋崩しだ。
地味で、退屈で、暇潰しにしかならないが、ボク達は山を崩していくゲームに興じる。何故なら、他にすることが思い付かなかったからだ。
「あのままゲームを続けるのも、悪くはなかったが」
「でも、面白くはないよ」
「あぁ、わかっている。だからこれでいい。あのまま続けていたら、決着は納得のいかないものになっただろう。だが……そうだな、もしも、永遠に決着が着かなかったとしたら、それは、」
オレも武藤遊戯だったら良かったのにな
「いや、なんでもない」
彼の飲み込んだ弱音が、ボクには聞こえてしまった。
……………………………………
実に2年ぶりのパラレルshort。
ほのぼの詐欺ですが、本編沿いではないのでこちらに。
(2013/10/30)
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