「そう言えばボクってもう成人してるんだよね」

もうすぐ十代くんが卒業だから、もう三年経ったんだよね。遊戯はそう言いながらガラス瓶をどん。と、突き出した。中で琥珀色の透明な液体が揺れている。

「し、知らなかったぜ……相棒が三回も留年していたなんて」

「他より三年早く生まれてきてその身長か。残念と言うほかないな、表遊戯くん」

三千前の王と、その王が武藤遊戯の闇人格して蘇った姿であるはずの闇・遊戯は、遊戯の言葉に同じような反応を返しながら、全く違う表情をみせた。

後者は純粋な驚き、前者は同情を含んだ笑みである。確かに、自分の学力はあまりよろしいとは言えなかったけれど、言えなかったけど!

遊戯は後ろ手に隠していたグラスに液体を注ぎ、どちらに、と一瞬迷った後、

「身長は関係ないだろー!」

一言多かった王の顔面に投げつけた。ちなみに、投げたのは中味の液体だけであり、遊戯の優しさから氷は取り除かれている。

「お、おい。いったい、なに、をす、」

王の言葉が不自然に途切れ、一拍。遊戯達が不思議に思い一歩近付いた遊戯達の目の前で、彼は突然ぐらりとバランスを崩した。

「……と。大丈夫、ですか。ファラオ?」

頭から倒れそうになった王を支えたのは遊戯だ。悔しいことに一回り大きい身体を支えながら声をかける。反応がない。褐色の肌を軽く叩いてみる。ようやく微かな反応があった。

「……ン?」

「おはよう」

「突然倒れそうになったお前を相棒が支えてくれている。起きたなら早く自分で立つといいぜ」

やや硬質な声は、聞こえなかったらしい。褐色の腕は遊戯の肩を越えて背で絡まり、

「助けてくれたのか!嬉しいぜ相棒!!」

赤く染まった満面の笑顔で、王は遊戯に抱き付いた。





「ね、ねぇ。もう一人のボク?そ、そろそろ離れてくれないかな?」

「落ち着くんだ相棒、オレはここだぜ。……そしてファラオは早く離れろ。」










 一人四色










「魔王!お前アルコール似合うよな!飲めよ!」

からん。
遊戯の背に乗ったまま、褐色の手を伸ばした。グラスを突き付けられたこの4人の中で最も小柄な身体を持つ彼は、ぎらぎらとした赤い眼を、ひどく不愉快そうに歪めた。

「……オレは遊戯だ。」

それだけを主張し背を向け、どこかへ歩いていこうとし始めた彼に遊戯は慌てて声をかける。せっかくこのいつも以上にうるさい王をここまで連れて来たのだ。背負って。解決策、最低でもヒントぐらいはつかまなければ。

「ちょっとした手違いで、うるさくなっちゃったんだ。離れてもくれないし、」

「お前ならファラオとの付き合いもオレ達より長い。だから、元に戻す方法かなにかを知らないか?」

「何故オレが、そんな面倒なことをしなければいけない?」

「別に俺は魔王に飲んでほしい訳じゃないぜ?相棒ももう一人のオレも飲めばいい。そうだ、それがいいぜっ!」

「……オレは遊戯だ。」

遊戯は横目で自分の相方を見る。眉間に皺が寄せながら、背を向けた小柄な肩に手を伸ばして引き止めていた。少しイラついているというか、不機嫌そうにもみえる横顔だ。とんとん、と指で叩いてから、もう一人のボク。と呼びかける。

こちらを向いた時には、眉間の皺はどこかに行っていた。分かりやすすぎる相方に、目線と口の動きで作戦を伝える。
お互いに頷いてから、線の細い背中に向けて声を張り上げた。

「頼むよ、キミにしか頼めないんだ、遊戯!」

「そうだ、オレからも頼むぜ。力を貸してくれ、遊戯」

「……グラスを貸せ。こいつを黙らせよう」

手渡されたグラスに、先ほどとは違う色の液体が満ちる。無色透明のその液体は、水などではない。
何故か異様に様になるその姿を見て、王はびくりと遊戯の背から飛び降りた。身を引いてそのまま逃げようとするも、そう上手くはいかなかった。

「ファラオ、お前にこいつをやるよ」

「いや、俺はウォッカなんていらない。やめておこう、な?未成年に飲酒は良くないだろう?年下に飲ませるとかよくないだろう?な?」

「あの世に持っていきな」

そういえば肉体的には一番年下だったような気がするなぁ。たしか15歳だっけ?一番カラダ大きいから忘れてたけど。
ゆらりとグラスを構える赤い眼を見ながら、遊戯は王を抑える力を強めた。





まだ、表遊戯くんと闇遊戯くんがここにいなかったころのことだ。

「何をしているんだ、魔王?ライターなんて持って」

「……火を、」

「火遊びは禁止な」

グラスに注がれていたアルコールを取り上げてしばらく眺めた後、一口だけ口に入れてみた。……やめておけばよかったとすぐに後悔したことを覚えている。

ぐらぐらと揺れる視界の中で、嫌にねっとりとした恐怖を味わった。

今ここで俺が倒れてしまったら、意識を手放してしまったら、何かとても、危険な気が、した。全てが終わってしまうような、そんな危機感を覚えて。

そのころ俺には記憶が無かった。だが俺は存在していた。何もかも分からないまま、ただ意識を手離すことに恐怖して、俺は必死にナイフを掴んだ。





「俺は、ねる、からな。あとは、任せ……」

「嫌だね。ボクにひっついていた分、後で何かしてもらうから」

「そうだな。相棒に謝れ。そして何か埋め合わせでもするといいぜ。そのあとに許す」

「しばらく静かにしていろ。起きてからも、だ。」

口々に言う文句を聞きながら、まどろみに逆らうことなく、誰にも責められることなく、遥か昔に王だった彼は、ゆっくりと瞼を下ろした。





……………………………………
中川陽様に捧げます!



>戻る

「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -