※遊戯と闇遊戯







「話があるんだ。もう一人のボクに」

「姿は戻ったのか、もう一人のオレよ」


しばしの沈黙が流れた。遊戯はなにも言わずに彼の隣に座り、言葉を待つ。目を泳がせたまま彼は口を開いた。


「すまない、その、何でもないぜ相棒! 話があるんだろ?」

「話があるのはキミも同じだろ?」

「いや、オレは、別に……」


言葉を濁した彼に、遊戯は少しだけ眉間に皺を寄せる。意識して息を吸うと、口調が強くなった。


「ボク達はもう、一つの肉体を共有している訳でも、一人の人間でもないんだから! 話さないと伝わらないんだよ!!」

「……あぁ、そうだな」

「だからボクから話す!」


遊戯の言い様に僅かに口元を上げて、彼は心なしか姿勢を正す。視線は正面から遊戯を捉えていた。


「わかった。先攻は譲るぜ、相棒」










 タイムアウトディブレイク










「十代くんは言ってたよね、姿を変えられるのは、ものを出すときと同じことだって」


マシュマロンの形をしたクッションを出現させて、それを抱えながら遊戯は説明を始める。それは自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。


「アイテムを出現させる条件、それはイメージ出来ることだ。ボク達が知らないものは出現させることが出来ない。そういうルールがこの世界にはあるんだと思っていた。でも、昔のボク達は学校という空間すら作ってみせた。あれはまるで、世界そのものが変化しているようにみえた。たぶんそれは、間違ってないように思うんだ」


遊戯は脳裏に空間を再生させる。あの世界は自分の知っている学校のようで、違っていた。感覚的に言うなら、違う目を通して見た色彩で彩られているかのような。


「この世界では知っているものを出現させることが出来るんじゃなくて、イメージしたように、この世界を自由に変化させることが出来るんじゃないかなって思ったんだ」

「つまり、相棒の身長が伸びたのも、また元の相棒に戻ったのも、」

「そう、ボクがこの世界に存在するボクを変化させたんだ。僕はね、アテム……」


微かに声が震えている気がした。言ってしまえば何かが決定的に変わってしまうように思えた。それでも、進まなくては行けないと、否、進もうと決めたのだ。だから、遊戯は言う。


「キミが居なくなってから、大人になったんだよ」


それは、意識などという曖昧なものではない。確かに時間は流れたのだ。旅人をやっていた遊戯もまた、ここにいる遊戯だった。遊戯は彼が居なくなってから、沢山のものを見たし、沢山のことを知った。だから、変わっているはずなのだ。彼が冥界に帰った直後の遊戯と混在してはいるものの、ここに居る遊戯は時間と経験を越えた遊戯だった。


「何を改まってるんだ? お前が武藤遊戯であることに変わりはないだろう?」


しかし、三千という途方もない時間の流れを味わった彼にしてみれば、そんなことは些細な問題としか思えなかった。


「それもそうか……そうだね」

「さて、オレはどこから話すべきだろうな」

「ボクみたいに遠回りに話すことはないんだよ」


遊戯は苦情を浮かべて促す。彼は軽く握った手を口元にやって、少し考えた。そして、ありのままに伝えるようと決める。


「あいつ……昔のオレが消えてから、あいつの記憶をどうやらオレが受け継いだらしいんだ」

「あぁ、だから……」

「いや、受け継いだという表現は少し違うな。あいつは消えたんじゃない、どうやら、オレになったらしい」

「……どういうこと?」

「そうだな……相棒の言葉を借りるなら、あいつは自分という存在を変化させ、消えた。その結果、あいつが固有に持っていた経験と記憶が、オレのものになった。だからオレは……」


彼は立ち上がり、芝居かかった動きでくるりと回る。そこに立っていたのは制服の裾にアンクを付け、暗い闇の気配を纏った少年だった。彼の影は笑うように揺れている。


「こういうことも出来るのさ」


遊戯は座ったまま彼を見上げる。それから、頭の先から足までを順に丁寧に見て、最後にもう一度彼の赤い目を見つめた。そして笑う。


「似合ってないね」

「オレもそう思うぜ」


彼もその姿に似合わないとは思いつつ、自分らしく笑った。



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