※暴力表現あり






















額を掴んで引き離し、そのままの勢いで地面に倒す。踏みつけるつもりで手を蹴ると、滑るように回転しながらナイフが遠ざかっていく。驚愕が浮かんだ赤い眼が抵抗の意思を持つ前に、細い首に軽く手を乗せた。


「ボクの勝ちだ」


勝利宣言をした声に甲高さはなく、驚くほど冷静な大人のものだった。苦笑いを浮かべる余裕すらある。これは、誰だ。ボクだ。決闘王・武藤遊戯。アテムが冥界に帰った後、この手でカードを操りその称号を得たのは、ボク自身じゃないか。











 反射的な赤












意識を取り戻したと同時に飛び込んできた相棒の表情を、オレは見ることが出来なかった。反射的に何か叫んだ気がするのだが、声が届いたのか、本当に声になったのか、それすら定かではない。

次の瞬間には強い力でオレは弾き飛ばされ、受け身をとって振り返った。その時には、ナイフは手の届かない場所でくるくると回り、持ち主は仰向けに倒され、見知らぬ青年に首を押さえつけられていた。ただでさえ力の無いあいつでは、もうどうやったとしても再び主導権を握るのは無理だろう。つまり、全て終わっていたのだ。


「……あ、」

「アテム、怪我は無いかい?」

「ああ、オレは大丈夫だぜ」


答えてから首筋を押さえた。大したことはない。しばらくすれば出血も止まるだろう。

…………どうでもいい。オレのことなんて、どうでもいいんだ。


「どうしたんだ?その、」

「リーチと力があれば、取り押さえられるのが分かっていたんだ」

「だが、」

「ボクは解決出来る方法をはじめから持っていた。だけど、」


地面から微かなうめき声が聞こえた。オレ達のちっぽけな手と違い、角張った大きな手に力が込められて震えている。


「すぐにそれを使わなかった。使えることは、分かって、いたのに、」


思わずその手を掴んだ。反射的に動いたせいで、首筋にあった利き手を伸ばしていた。オレの血がついてしまったが、もう遅い。仕方ないので、手を持ち上げて握り直した。


「落ち着いてくれ、オレは大丈夫だから。な、相棒。」


見たことのない顔は、数回まばたきをしたあと、よく知った表情を見せた。間違いなく、オレの相棒・武藤遊戯の表情の一つだった。


「……何故、邪魔をする。武藤遊戯は、オレを殺さないのか?」

「お前は頭を冷やすといいぜ、魔王」


挑発するつもりで、ファラオの言い様を借りてみる。はじめて発し、何とも上手く表したあだ名だと少し感心している程度の間を空けてから、言葉が返ってきた。


「その呼び方は不愉快だ。やめろ。オレは遊戯ではないが、王でもない。」



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