※ある意味死ねた注意
もう一人のボクには誤魔化したけど、ここがどんな場所かなんて予測は出来てる。
何もなく白いだけのここが、誰かの言う通り退屈なのは確かだけど、問題はそれじゃない。
ここは冥界とは違う。
でも、
死後の世界と言っても、たぶん間違いじゃない。
死んだボク達と生きているボク
決闘王は空を見上げる。素晴らしい程の快晴だ。空は青く、高い。
まだ暑いものの9月に入ったからなのだろうか、だいぶ過ごしやすい空気なってきたな。などと考えながら、彼は再び街の中を歩きだす。
「うーわぁ!遅れる!遅れる!遅れる!こんな大事な日に限って、電車が遅れるなんて!いいや、エキサイティング!!これはオレに与えられた、試練なんだ!」
正面衝突まであと数秒。
「……いつか、十代くんともデュエルしてみたいな。彼は絶対、素晴らしいデュエリストになるよ」
「相棒、突然どうしたんだ?」
「え、あ…何でもない。ちょっとした独り言。気にしないで」
「……?」
不思議そうな表情で首を傾げながらボクを見ていたもう一人のボクが、デッキに目を戻すのを待ってから気づかれないように小さく息を吐いた。
危ない、まだ十代くんの物語は始まっていない。
だから今さっき起こった正面衝突を知っているのは、“経験”をしたボクと十代くんだけなのだ。
青く、高い空の下で。
“大丈夫、生きてるよ”
この言葉に嘘はない。間違い無くもう一人のボクが冥界に帰った後もボクは現代を生きているし、童実野高校だってなんとか卒業した。
……はず。
でも、ボクがここに来たのは、エジプトから帰ってきた直後。突然白い光が視界と意識を染めて、気付いたらここで歩いていたのだ。
まさか、こんな事になるなんて流石に予想は出来なかった。だってずっと一緒に居た(離れてた時もあった気がするけどね)友達との永遠の別れ。寂しく思うこともあるだろうけど、ボクはボクの人生を全うしよう。とりあえずしばらくは決闘王の称号をボクの手で守ってみせよう。
そんなことを考えていたのに。
こんなにも早く、もう一人のボクに再会するなんてね。
こんなにも早く、ボクが死んでしまうなんてね。
いや“ボク”は間違い無く生きているんだけど。
キミとまた会えて嬉しい。でもボクの心には時々、張り裂けるような寂しさが襲ってくる。それは“ボク”が生きているからだ。
ここじゃない何処か、空の下で、成長する心と体を持ったボクは、キミを思い出して寂しくなったりなんかもしながら、確かに生きているんだ。
「……相棒?」
「ん?どうしたの?もう一人の……何してるの?」
「いや、相棒が冷たいように見えたんだ。だから確かめてみたんだが…」
真面目な顔でそんなことを言いながらボクの手やら額やらを触る元・名も無きファラオ。これは怒ってもいいのだろうか。
「ボクって冷たい?」
「大丈夫だ。相棒は暖かい」
………どうやら、
何もないここで、空もないここで、成長しない心と体とを持ったボクは、キミとまたデュエルしたりしながら、確かに生きているみたいだ。だって死体は冷たいけど、ボクは暖かいらしいから。
「キミだって暖かいよ、アテム」
………………………………………
物語の終わりとはその世界の終わりで、登場人物にとっても一つの終わりなんだろうなということ。
だからこの完結後特殊パラレルはそういう意味で死後の話。
09.11/
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