※暴力表現あり
意識が途切れていた。いや、途切れさせられたのだろう。目を開き、重い頭を振って無理やり覚醒させる。こんなところで寝ている訳にはいかない。
ぼやける視界のまま、もたれ掛かっていた冷たい壁を掴んで立ち上がった。
「……開かない、か」
掴んでいたものは見覚えのある扉の取っ手だった。ウジャト眼が浮かぶ、侵入者を拒む扉だ。
そして拒むのは、侵入者だけではないようだった。オレを閉じ込めて、あいつは……闇の番人は何がしたいのだろうか?
「…………オレを迷わせた罰に、闇の中を迷い続けるがいい」
考えた末に口から出たその言葉は、歪んだ価値観が生み出す傲慢な口調で、怒りとも喜びとも取れる感情が籠もっていた。それはオレが闇の番人を真似た訳ではなく、オレ自身の言葉でもあるのだ。あいつが闇の番人なら、オレも間違いなくそうなのだから。
瞬間的な赤
彼の細い身体では、遊戯と同じ体型を支えることで精一杯らしい。首に腕を回してはいるものの、意識の無い身体を俯かせておくことしか出来ず、不安定感は否めない。だが、彼の思惑は達成されていた。
結果的に、対峙した遊戯は完全に動きを封じ込められている。体格差を埋めるべく彼は有効にアイテムを使用し、フィールドを支配することに成功していた。遊戯は言葉を発することもできず、ただ奥歯を噛んだ。
「どうした。何も言わないのか?」
「……何が、目的だ」
感情を押し殺した声を聞き、彼は口元をあげて喉の奥で笑う。笑いながら意識の無い身体に、その相棒への挑発代わりに軽く蹴りつけた。反応はない。当たり前だ。こいつにオレは勝ったのだから。
射殺せそうな程鋭い視線の前で、柄を回してナイフを握り直し刃を内側に向ける。
そして、高々と宣言してやろう。
「オレはお前に、勝ちに来た」
憎悪に燃えた眼が、彼に勝利を確信させた。彼が倒してきた悪役達も、同じ様な顔をしていたのだから。
扉を背に見上げると、懐かしい迷宮が広がっている。この扉が開かないというのなら、別の扉を探し出さなくてはいけないのだろう。部屋を探すこのゲームは、記憶にある。
そして無事に本当の部屋を見付け出すことが出来れば、そこには何かが在るに違いない。だが、
「そんなゲームに、付き合ってやる暇はないぜ」
左腕を掲げ、魂を使用するイメージを作る。ゲームは闘いだが、どう闘おうとオレの自由だ。
「オレの魂に応えろ。蘇れ……幻想の魔術師よ!!」
ディアディアンクを媒介に、黒衣の魔術師が現れる。仲間であり、部下であり、しもべであり、友人である彼は、杖を構えて口を開いた。
「お久しぶりですファラオ。ご命令を」
「ありがとうマハード。行くぜ、この迷宮を脱出する。」
攻略の方法は一つではない。いくつもの思惑が混ざり合った空間には、いくつもの可能性があることを、固まった頭に教えてやろう。待っていろ、闇の番人よ。
オレは突き当たりの壁を指差した。
「あの壁に向けて攻撃だ。――魔導波!!」
土煙を上げて開いた道に向けて、オレ達は走り出した。
「さぁ、ゲームの時間だ。このゲームも、勝つのはオレだがな」
「……」
遊戯は思考する。状況を整理し、為すべきこと以外を排除していく。焦る感情を抑えつけ、最も重要な一点を見据えた。
どう動けば、助け出せる?
「簡単なルールだ」
彼が僅かに手を動かすと、腕の中の首筋に刃の先が触れた。小さな傷口から、赤い玉が浮かぶ。
「―――― !!」
その瞬間、遊戯は思考を投げ捨てた。
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