※闇と魔




相変わらず、あいつは存在しない地面の上で転がっている。










 名無し










アテムはその時一人だった。彼の相棒である遊戯は、ちょっと話してくるから、とだけ言い残して歩いていってしまったからだ。
何を、とも誰と、とも言わずただ少しばかり眉間に皺を寄せて、遊戯は空間の果てを見ていた。

どうすれば、良かったのだろう?

いつかと同じように、アテムは一人で歩いていた。何故歩いているのかと言えば、立ち止まっていられなかったからに過ぎない。

何か、見落としているような。

行けども行けども景色は変わらない。それでも何かにせき立てられるような、焦燥感。原因を探るために、アテムは歩く。

違うな。見落としている訳じゃない。


「どうだろうな」


足元から放られた声に、アテムは歩みを止めた。同時に思考も止まる。止まってしまった。
無気力に転がしていた小柄な身体をその主はゆっくりと起きあがらせ、ぎらぎらとした眼はアテムを見上げる。


「まぁいい、お前には聞きたいことがある」

「…なんだ」


無意識にアテムの声が低くなる。敵対心、なのだろうか。理由は誰にも分からない。
対する者はその様子を喉で笑う。どこか冷たいものをまとった声に、二人の声質の違いが際立つ。


「ククッ…対したことじゃあない。パスルだ、オレの千年パスル、在処を知らないか?」

「……!それ、は」


知らない、訳ではない。この目で見たわけではないが、あれは。
無くなった、砂に埋まった。そう聞いていた。
それはもう必要無い物だからだ。と。


「知って、いるのか…?」


細い腕がすっ、と伸び、正面から服を軽く掴んだ。顔が伏せられてしまったため、何故かある身長差のせいで表情を伺うことができない。
そのまま沈黙が流れた。


「おい、離してくれな……!」


突然、強い力で引かれ、言葉が途切れる。


「どこにあるんだ?知っているんだろう!大切なものなんだ、教えて!ボクの宝物なんだ!八年かけてやっと完成できた、大切な、大切な、ボクのパズルなんだよ!」


涙の流れるその顔には先ほどまで纏っていた冷酷さなど欠片もなく、明らかに別人のそれだった。
しかし本人には、気付いた様子もなかった。


「……っ!」


彼らはまだ、一人なのだ。それに気付くまでも無く、彼らはここにきてしまった。何故なら彼らは“終われなかった”のだから。明確な終わりがないまま終わってしまった彼らには、パズルが無い理由が分からない。分かるはずもない。


「……すまない」


何に対してか分からない謝罪を口にしながら、掴む手を払って走った。










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