あーあ、と隣の幸村はため息をついた。
気にするな、とか、お前は良く頑張った、とか、そんな気休めの言葉は言わない。そんなもの、この王者立海の前では意味をなさない。
ごめんね、と幸村は言う。
そして、酷く悔しいと。
うむ、と返事を返す。
それしか言えることはないし、出来ることは無い。
「病気になってもうテニスなんて出来ないって言われて、ベッドの上で絶望に打ちひしがれてずーっと泣いてた地獄のような日々を思うと、ああやってテニスをもう一度出来たことは奇跡だと思うし、とても喜ばしいことなのにね」
うむ、と返事をする。
しかしただテニスをすることだけを、この立海のユニフォームは許さない。テニスをして、そこに絶対的な勝利をもたらさないと、意味はないのだ。
まるで奴隷みたいだ、と幸村が小さく呟いたのを、真田は聞き逃さなかった。普段だったら、そんなことを部員が言うものなら、たるんどる!と一発殴りつけているのだが、今はそんな気にはならなかった。
それどころか、そうだな、と相槌を打ってしまいそうなほどだった。
でもーーー、
この三年間、互いに全身全霊の力をこの部活、そして学校のために注いで来たんだ。それは酷く苦しく過酷で、そして時には孤独な日々だった。
ほんの少し、今だけは、その成果を出せなかった、そんな自分達を、褒めてあげてもいいんじゃないか。
ふわりと、そんな気持ちが心に宿る。
とっさに幸村の白い腕を掴むと、腕の中に抱え込んだ。
幸村の身体は、どこからあんなテニスをやる力が出てくるのかというほど細くて、今にも壊れそうだった。
なに、どうしたの、と幸村が胸の中で言う。どこか笑っているような声だった。
「お前含め、俺達は充分頑張った。充分過ぎるほどだ」
「一体全体どうしちゃったの?お前にそんな言葉もこの行動も全然似合わないよ」
「お前は良く頑張った。立派だった」
病気になって、それでもコートに戻ってきて、そして全国大会の決勝で死に物狂いで戦ったんだ。それ以上のことは誰も何も望まない。
腕の中に大人しく収まってる幸村は決して顔は上げなかったが、嫌そうではなかった。
すすり泣く、か細い声が聞こえたのは、それからしばらく経った後だった。
勝利の形
fin.