「生きることは時として難しい。違うかい?」


そう言うと真田はベッドの脇に置かれてある丸イスの上で、その太い眉を不快そうにしかめた。

「だから時々俺は世界が嫌いになるんだ。こんなにも残酷で冷たい世界なんて消えてしまえばいいってね」


今日はからりと晴れた日だった。窓の外は太陽のやわらかい光がふりそそいでいて、色褪せた秋の景色に命を灯しているようだった。空の青色は遠く薄く果てしなく続いている。


「例えば俺が死ぬとする。そしたらみんな悲しむだろ?自分で言うのもあれだけどこれでも有名人だからね、うちのテニス部だけじゃなくて他校の奴らも悲しむだろうし、もしかしたら俺が知らない女の子もどこかで俺のことを想って泣くかもしれない」

お前と違って俺はモテるからねと笑って真田を見ると、どうしてお前はいつもそんなことばかり言うんだという言葉をその濃い顔全体ににじませていた。


けれどそんなことなどお構いなしに、だからね、と続ける。


「だから全て終わってしまえばいい。こう、地球の内側からどかんと。人も動物も建物も車も山も海も大陸も、全部全部こっぱみじんになればいい。人がいるから辛いとか悲しいとかそういう感情があって、何もなければその惨状を嘆く人も悲しむ人も辛い思いもなくなる。幸せな人は幸せなまま消えてなくなれるし辛い人は一気に解決。動物には申し訳ないけど、地球の不可抗力ならしょうがないよね」


まぁつまりは、全て無になれば幸福も不幸も全てなくなってみんな平等になるのさ。


「これってとても良い話じゃない?」

と問えば、真田はむすっと押し黙ったままこちらをじっと見つめていた。


「間違ったこと言ってるかな?」


しばらくしてからあきれたようなため息を深く吐いて真田はいや、と言った。


「お前は正しいかもしれん」



ポツリと言った低い声を聞いて、あははと笑いがこみ上げる。

「お前は馬鹿だ」
「…」
「でもそんなとこも好きなんだからしょうがないよな」


困ったような真田の顔を見て、再び笑いがこみ上げる。ひとしきり笑った後に、目の端の涙を拭いながら精一杯の恨みを込めて、お前は馬鹿だと言ってやった。


(俺は全てを否定してもらいたかったのに)



罰としてキスして。


fin.




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