太陽の香り





むわっと熱気を持った夏の風が、冷たく乾いたものに変わっていく。

季節は秋。
北国で冷やされたであろう風が、その金色の髪をさらさらとすべる。気温はまだ高いが、風の冷たさとのギャプが気持ちいい日だった。



「おい、慈郎はどうした?」


部活終了後に毎日行われるミーティングで、部長が不機嫌そうに眉をひそめた。


「日吉、探してこい」


次期部長として責任能力を植えつける指導なのか、はたまた偶然に自分が目に止まったのか、

それとも――…



部長は自分の名呼んだ。



***

しゃらしゃらと枯れた落ち葉を風が揺らす音が心地いい木の下で、探していた先輩はスヤスヤと寝ていた。


「芥川さん、起きてください」


何回か呼び掛けるが応答なし。
まるで死んでいるかのように眠る彼は、死人のように美しかった。


右肩を下にして、半ば丸くなるようにして眠る彼の横に座った。シーズンオフを迎えた今、ミーティングも大した話はないだろう。

このままもうしばらく寝かせてあげるのも良い気がした。


ぶわっと透明な風がいっそう強く吹くとまだ木にしがみつく葉を落とし、積もる落ち葉ごと巻き上げる。ふと見ると、ウェーブがかかった柔らかい髪に乾いた葉が数枚すがりついていた。

するりとその髪に指を通すと、かさかさと音を立てて落ちていく。

そして手に残る優しい感触。


それがあまりにも優しすぎるから、ゆっくりとした手つきでいつのまにか何回も、その髪をすいていた。



「――ッ!!」


それに気付いて慌てて手を引っ込める。心臓がばくばく鳴って、羞恥から頭を抱えてうなだれる。


今、自分は何してた…?



「起こしに来てくれたんだ?」

途端に寝ていたはずの彼の声が聞こえて、弾けたように顔を上げるとにこにこ笑う目と視線が合った。


「日吉が来てくれるなんてうれC〜」

「…ッ、部長に頼まれただけです!!」

「それでもうれCよ?」


心に浮かび上がった感情をストレートに告げられ、その羞恥から口をつくのは心にもない罵倒。


「そのしゃべり方‥やめろ…ッ!!」

「嬉しい」


何事もなかったかのように素直にそう言ってニコッと笑う。

その笑顔がとても可愛くて、それが自分だけに向けられたのが恥ずかしくて、日吉は戸惑うように視線を外した。



「ねぇ――…」


ほんのり頬を染めて、そっぽを向いてしまったジャージの裾を引っ張られる。


「さっきみたいに髪撫でて?」

「な―ッ!!」


起きていたことに驚愕し、顔に一気に熱が集まった。急いでその場を離れようと立ち上がるが、掴まれていた裾が強く引っ張られ、日吉はあっさりと態勢を崩した。


「――ッ!!」


意地悪く笑う彼に多い被さるようにして倒れると、あっという間に唇が重なった。


「な、何を…ッ」


至近距離にある整った顔が微笑む。


「何って、キス」

「学校ではやだって…」

「大丈夫、誰もいないよ」


そういう問題じゃないと反論しようとした言葉は、再び彼の唇によって塞がれた。

端から見たら、自分がキスをしているように見えるのだろう。

それはすごい屈辱だけど、よくよく考えれば二人きりで会えたのは久しぶりで、あんまりにも嬉しそうにしてるから今日のところは勘弁してやろうと、日吉は目を閉じた。



大好きな先輩の唇は、太陽の香りがした。



fin.





Dear.咲月様

Thanks.リクエスト

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