「好きだよ、日吉くん」


初めて気が付いた。

瞼を閉じる寸前に見えた大きな瞳は、深くて綺麗な緑色だった。






緑の空を飛ぶツバメ





「瞳きれい」


キスの後、濡れた唇が珍しく可愛い言葉を紡ぐものだから、どきりと心臓が脈打った。


「緑色っしょ」


今さらな発言も日吉らしいと半分苦笑しながら、何も役には立たないけどねと付け加えた。



「欲しい?」


抱きしめたままそう耳元で囁けば、こくんと小さな頭は縦に揺れた。


「じゃああげる」


うふふと笑って、ラケットで豆だらけの指を右目に滑らせた。

ぐちゅりと音がして、指が眼球の裏側へ回る。

頭が真っ白になるほどの鋭い痛みが脳みそを焼き、粘着質のある赤黒い血が指を伝って腕から滴り落ちた。

一瞬でも気を緩めたら悲鳴が唇から洩れそうになるのを堪えると、口角は自然に上がった。


君のために何かができる自分が、
こんなにも嬉しい――…



眼球を握り込むように指を曲げると力一杯引っ張った。

ぶちぶちという神経が引きちぎれる音がして、先ほどとは比べものにならないほどの痛みが駆け抜け全身が痙攣するが、足を踏ん張って何とか意識を保つ。

頭蓋骨から切り離された眼球は、赤黒い血と透明な液体にぐちゃぐちゃにまみれて手のひらにつるりと転がった。


それを日吉へ差し出すと、彼はそれをまるでおやつをつまむような自然な動作で口へと運び、しばらく口の中で転がしたあと手の中へ吐き出した。

きれい、と何度もつぶやきながら日吉は深い緑色をした眼球を撫でる。


彼の愛しそうなその表情は、ぽっかりと空いた右目の痛みを忘れてしまいそうなほどだった。


ああ、幸せ…



「もう一つ、欲しい?」


背筋に汗が伝うのを知らないふりして、にっこりと笑いかけた。

視線を瞳に向けたまま、撫でる手を止めずにゆっくりと日吉はかぶりを振った。それを見てから、赤也は気付かれないように深く息を吐いた。

(綺麗な日吉くんが見れるなくなるのは、ちょっと困るよね)



それから小さな透明のビンに入れられた深い緑色をしたそれは、二人の不確定な未来を見つめるかのように静かに佇んでいた。







fin.




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