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マイペースなお嬢様と怪盗さん







―…それは夜遅くのことだった



私が彼…、怪盗Rに出会ったのは…















私はいつも通り、月明かりに照らされた部屋の中で、枕元のランプを点けて本を読んでいた

最後にこの部屋の外に出たのはいつだろう

ふと思い出そうとしてみる、ああ確か二週間前だ

ちょっと友達のところでも行こうかなって思ったけど、会えなくて街をぶらぶら歩いたときだ




散歩は楽しい、家の中は堅苦しくて居辛いから




まあ、私はいわゆる良家のお嬢様だ

私は別にお金持ちに生まれたくなかったな

だって格式とかうんたらかんたらばっかりで、正直めんどくさいのだ

お義母様だって私のこと嫌いなのか嫌みばっかり言うし…

お義姉様はそうでもないから好きだけどね








はあ、と溜め息をついてベッドの上に転がる



紅茶が飲みたい



そう思った私は室内にあるガスコンロに水の入ったヤカンを載せ火をかける

なぜガスコンロがあるかって?

それは私がメイド長に頼んだからです
懇願して、日本でいう土下座というものをやろうとしたら、わかりましたって

お義母様にも言ってくれたようだ


うんメイド長感謝ですよ



ピーっとヤカンが鳴ったと同時にバルコニーの方からドシンと鈍い音が響く

何かしら?

私はとりあえず火を止め、バルコニーに近づく


こんなに音をたてても人が駆けつけないのは、今私がいる場所は離れの家だからだ

屋敷からは結構離れてるし、今日の見張りの人はさっき見たら爆睡してた
…でも私やさしいから、お父様には言わないわ。うん




バルコニーに向かって一歩…二歩…

黒い陰がガラス越しに見える


私はそっとガラス戸を開け、それに近づいた



「…人?」



黒い陰は、人のようだった

なんだろう。強盗かしら
金目の物よこせって言われたら、真っ先に渡しちゃいましょう

だって命は惜しいもの



「もしもし…生きてますか?生きてないですか?」

「…」



返事はない、屍のようだ

きらきらとした月明かりに照らされて見えた顔は、フェルトハットを被った赤い髪の若い青年だった


俗に言うイケメンです



「頭でも打ったんでしょうか…仕方ない、部屋の中で寝かせましょう」

「……っ」

「ああ、でもどうやって運びましょう…?…………引きずりますか」

「…っ…いたた…」

「あ、起きました」



眼も赤いのですね、と笑いかければ、彼は目を丸くした

ここは、と聞いてきたので、私の部屋のバルコニーと答えました


悪い人じゃなさげなんで、室内に入れました

ついでに頭の応急処置も



「びっくりしました。いきなり降ってきたので

あ、治療終わりです」

「ありがとう。ところで君の名は?」

「…シエル。あなたは」

「僕は怪盗R。よろしくシエル」



そう彼は不敵に笑った

素敵な笑顔でした



「怪盗R…あなたが噂の…!」

「はは、幻滅したかい?」

「いえ、予想よりカッコイいですよ」

「それは嬉しいな」



ふふっと笑って、私はベッドに座る

彼はソファに座らせた


彼は軽々しく自分を部屋に上げていいのかと聞いてきたが、私はちょうど話し相手が欲しかったのでいいのよ、と答えた

Rさんは「マイペースだね」と笑った




「にしても見張りとかはいないの?ずいぶん広い屋敷だからいると思ったんだけど…」

「ここは離れの屋敷なの。それに今日の見張りは爆睡中」

「大丈夫なのかい?それで」

「いいの、鍵は閉まってるし抜け出す気もないの。

それにここ二週間外に出ていないし、話し相手なんて周りにあまりいなかったから、あなたと話したいの」



紅茶でも飲もうと思い立ち上がる

さっきせっかくお湯を沸かしたのだから、飲まなくては



「二週間外に出ていないって、閉じ込められてるの、キミは」

「まあ、そうですね。私が悪いから仕方ないんですが」

「…シエル」

「ちょっとした悪戯なのに、閉じ込められるなんて
まあ、前からそうでしたのですけどね」

「…は?」



怪盗Rさんが間抜けな声を出したがら、私はクスクスと笑った



「悪戯…?」

「そ、悪戯です

ちょっと、義理のお母様に悪戯したのです」



淹れた紅茶を渡し話を続ける



「閉じ込められる一日前ね、お義母様が嫌みばかり言うから、仕返しに晩御飯のお義母様のスープにね



タバスコを丸々一本いれてあげたんです」


ぐっと握り拳を握って言えば、クスリと笑い声が聞こえて視線をそっちに向ける



「ははっ、面白いね!タバスコで悪戯するなんて

ホント、お転婆なお嬢さんだね」

「むぅ、笑うなんてひどい」



紅茶を飲みながら軽く睨めば、Rさんはまた不敵に笑う



「睨まないで、せっかくの可愛い顔が台無しだ」

「なっ!!?」



ボンっと顔に熱が集まったようだ、顔が熱くてたまらない

怪盗Rさんは頭をポンポンと優しくなでてくれて、少し泣きたくなった


最後に頭をなでられたのはいつかしら



「…子供扱いしないでください」

「嫌だった?」

「嫌じゃ、ないですけど…恥ずかしいです」



ぐいっと彼の手を頭の上からどかせ、Rさんを見つめる

バルコニーへと歩くRさん
どうやら帰るようだ



「今日は話を聞いてくれてありがとう怪盗Rさん」

「いや、シエルの話は聞いてた僕も楽しかったよ」

「それは嬉しいですね」



カツンと革靴を鳴らせて、私の前に来るRさん

そっと私の手をとって、その手になにかを握らせた



「これはキミに

僕が持つより可愛いシエルが持ってほしい」



手をそっと開けば、綺麗な石

宝石の原石のようにきらきらとした石だった



「素敵、ありがとうRさん」

「また来るよ」

「本当に?それは嬉しいですね」



私が笑えば彼も笑った


その無邪気で不敵な笑みに胸が高鳴ったのは内緒の話

またきてくれる、そのこともまた嬉しかった


いつの間にか、私の心は奪われてしまったようです
でもそれもイヤじゃない






軽やかなジャンプで去っていく後ろ姿を見て、私はまた笑った












マイペースなお嬢様と怪盗さん

(また会える日を楽しみにしてます)




END


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