もう少し、あと少しだけ 〔1/1〕

※決戦前夜










空が紅く染まり、宵闇に包み込まれる夕刻

甲板に一人、少女はただただ世界樹をじっと見つめていた

そのふわふわとした癖っ毛の紫色の髪を海風に靡かせながら、碧の瞳に世界を移していた



ラザリスの世界に貫かれた、ルミナシアの世界樹。見ているだけで自分の体も、心も、痛いと感じた気がした







でも、それ以上に世界を、ラザリスを助けたいという思いがあった


胸の前で祈るように手を握る

空はだんだんと暗くなっていく頃だった






(…ルミナシアと…ラザリスを、助けたら、…私は…)


――…どうなるんだろう…?














さーっと血の気が引く


空が暗くなると同時に、心に影が掛かる




(こんなんじゃダメ、弱気になっちゃ…だめだよ…)




熱くなる目の奥、微かに息をするねが苦しく感じる

泣きたい、なのに泣いちゃだめな気がして、涙を一生懸命引っ込めようとしたとき、後ろから誰かに呼ばれて、恐る恐る振り返る





「…クラルテ?」

「……っ…ジューダス…?」



ホールに続くドアから入ってきたため、ホールの明かりが逆光となり、姿を確認するのに少し時間がかかった

クラルテは一度だけ瞳を閉じて、パチリと目を開く


そうして今の弱気だった表情を引っ込めようとしたのだ




「……どうしたの?」




クラルテがそう問いかければ、ジューダスは「泣いているのかと思った」と言うのだから、少しだけドキリとした





「泣いて…ないよ。…ただ、明日は…決戦、だから…少し世界を、見ておきたい…と思ったの」

「……そうか」

「だいじょぶ……」




その大丈夫の一言は何にたいしてだろうか。ジューダスはふと考えてみる


すると俯いていたクラルテの肩が小刻みに震えるのに気づき、「どうかしたのか?」と顔を除き込んだ



「……あ、れ?」



頬を伝う暖かい水、クラルテはそっと手を顔に持ってくる

その間にも雫はポタリと落ちていった




「…わた、し……なんで、…泣いて……」




頼りなさげに下がる眉、揺らぐ瞳

そんな少女を見て、ジューダスは自分のマントを外しクラルテを覆うようにマントを掛け、その上から小さく見えたその体を引き寄せた




「…泣きたいなら、泣けばいい。僕は何も見ていない」

「……でも、でも…私、…怖がっちゃ…だめ。だって、だって、……っ私は…ディセンダーだから…」

「…今だけはそれを忘れろ。でないと、お前が壊れてしまう」




ギュッと腕の力を強めれば、小さな手が後ろに回されたのを背中に感じた




「…今だけはただの人でいろ」

「……ぅあ、…うう…っ…ぅ…!!」














…ディセンダーの貴方にしか――


…ディセンダーだから何でもできるのね――


…ディセンダーだからそんなに強いんだね――


















(…だめだよ)

(私、…弱さを知っちゃったの)

(…本当は、…すごく怖いよ)

(強くなんかない…)











「ジューダス、」

「何だ…?」



「…わた、し…ほん…とは…怖い、怖いの……すごく」




涙混じりの震えた小さな声は、ジューダスにはちゃんと届いた





「………ギュッ…て、して…もっと…もっと……」

「…ああ」



腕の力を強くすれば、腕の中の少女から「ありがと」と声が聞こえた
せめて、君の悲しみが軽くなるようにと願いを込めた



「…ずっと、いっしょ…いたいよ」




少女の願いに、ジューダスはまた腕に力を込めて、そして「…僕もだ」と小さく呟いた








「………大好き、だよ。……ありがとう…ジューダス」



雫がポタリ、甲板に落ちたとき、二人の唇が合わさった

微かに光出した星だけが見ていた











もう少し、あと少しだけ


(日が上ったら)(別れの合図)

(…いってきます)








お題:依存

ひよこ屋様より


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