お茶会を始めましょう 〔1/1〕
「………あ」
彼女がリオンの掃除をしている最中に、ひらり、花びらが窓から入ってきた
リュンヌはそれを拾い窓の向こうを見れば、花が風に舞っているのが見えた
「ここは暖かい土地なんだね」
ポツリ、誰もいない部屋で呟いた彼女はふわりと笑っていた
暖かな春の風を心地良さそうにしていたが、大切な主の部屋を花弁まみれにするわけにもいかないので、少し残念だな…と思いながら、リュンヌ窓の戸をそっと閉じた
リュンヌは時計を見て、そろそろリオンが帰ってくる時間に気づき、早く掃除を終わらせて、ホールに向かう
船内の廊下を歩いてるとき、どこからか入ってきた風が、彼女の髪を踊らせた
時刻はもうすぐ3時、おやつの時間になる
リュンヌがホールに着いたとき、リオンはちょうど依頼から帰ってきていて、彼女は怪我をしてないか心配しながらリオンに駆け寄った
リオンの傍にいき、ぺこりとお辞儀をしてから優しく微笑んだ
「リオン様、おかえりなさいませ。お怪我はしていませんか?」
「ああ、大丈夫だ
リュンヌも家事をやっていただろう?疲れてはいないのか?」
リオンが少しだけ心配そうに自分を見つめてきたから、リュンヌはちょっと照れながら大丈夫ですよと言った
リオンもそうかと一瞬だけ優しく微笑んだのに気づき、リュンヌは幸せな気分になる
「もうすぐおやつの時間ですね。あとで紅茶をお持ちいたしますね」
「二人分、部屋に持ってこい」
「…!はい、わかりました」
その言葉に花が咲いたように笑う彼女と頬を緩めて笑うリオンに、回りの人たちは相変わらず仲がいい二人だなと見ていた
カツカツと廊下に足音が響き、それは一つの部屋の前で止まる
リュンヌはコンコンと控えめにノックをして、お茶をお持ちいたしましたと問いかければ、中から入れと一言聞こえた
彼女はお茶菓子と紅茶が乗ったトレーを片手で持ち、静かにドアを開く
「今日はモンブランを作りましたよ」
「美味しそうだな」
「頑張りましたから」
えへへ、と照れ笑いしながら、リュンヌはトレーをテーブルに起き、紅茶をティーカップに注ぎ始めた
「…リュンヌ」
「なんでしょう?」
「敬語、二人の時は敬語はなしと言っているだろう?」
くすり、と笑いながらリオンが指摘すれば、リュンヌは忘れてた言うように「あ…」と呟いた
「お前は毎回忘れてるな」
「だって、いつも敬語だから忘れちゃうの」
「まったく…リュンヌらしいな」
「もう、それは嫌味なの?」
「さあな」
喉を鳴らすようにして楽しそうに笑ってるリオンに、リュンヌは意地悪だねと言いながら、自分の分ケーキを食べ始めた
「そうだな。僕は意地悪だからな…、リュンヌ」
「何かな?」
名前を呼ばれ、顔を上げれたら、唇に暖かな感触それが何なのかに彼女は気づき、顔に熱を集中させた
「なな…何を…!!」
「…レアチーズのクリームが口に着いていたから、取ってやっただけだが?」
「…い、いきなりやるなんて…やっぱり意地悪だよ」
顔が赤く染まったのを見られたくないからか、リュンヌは窓の方に顔を反らした
窓の向こうで桃色の花弁が舞っているのが見えて、リュンヌは立ち上がり、窓をそっと開けた
「…綺麗ね、舞っている花」
「この近くで咲く花だろう。しばらくはここに留まるようだから、見ておくといいだろ」
「うん」
ひらひらと舞う花弁は、彼女の髪に着く
だけど、リュンヌはそれに気づかずにふわりとリオンに笑いかけた
「…ねぇ、また明日も…――」
お茶会を始めましょう
と、彼女は笑った
(明日も明後日も…ずっと穏やかな時間が続けばいいなと願いを込めて)
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