今日は3月5日。
本当に偶然で知ってしまった、想い人の誕生日。

私は朝からうろたえていた。
なんていうか、恋する乙女の決断力と行動力には我ながらびっくりだ。
ちら、ともう一度鞄の中を確認する。
いつもの如く並べられた教科書たちの隅に、可愛らしく包装された箱。昨日悩み抜いた末うっかり買ってしまった。

そして、下駄箱の前に立っている。
色々考えた結果、本人に直接渡すのはどうしたって無理なので、朝一下駄箱に入れてしまおうという名案を思い付いたのだ。
…が、しかし。
既にまるで献花の如く添えられているプレゼント達を見るとなんとなく自信が無くなってきた。
なんだこの宝の山みたいなのは。きらきらしてるぞきらきら。こんなとこに私のこの箱を置くのか。


…というわけで下駄箱の前でしどろもどろしているわけで。あああどうしようどうしよう。

「どうしよう…「おはよう。どうかした?」どうもこうもプレゼントを…」

…を。
いや待て誰に返事してるんだ私は。
最悪のパターンからは全力で目を背け、私は恐る恐る後ろを振り返った。

「プレゼントを?」

ぱちり。
振り向くと幸村くんと目が合った。完全に目が合った。おまけに猛烈に至近距離だ。
最悪のパターンきたあああやってしまったああああ幸村くんおはようございますうう!!!

「え、いや、あの、えーと…プレゼントを…プレゼント、を…あっ、み、見てたんです!すごい量だなぁって!あは、あはは………失礼します!!」
「え?あ、ちょっと…!」

言うが早いか足が早いか、私は一目散にその場から離れた。
逃げろ、逃げるんだ私!!三十六計逃げるが勝ち!!

結局、引き止めてた(気がする)幸村くんをなんとか振り切り(彼がまだ外靴だったのが不幸中の幸いだ)私は教室へと駆け込んだ。


教室に入ってしまえば、私は私、彼には彼の友人がいる。
だからこうしてクラスに居れば安心だ。
………と思っていたのに。

「今日の日直、幸村とお前だから。頼んだぞ。」

先生、私何か気に食わないことでもしてしまったんですか。



「はぁ…長かった…」

ようやく一日が終わった。
皆が帰った教室には、夕日が差し、辺りをオレンジに染めている。
教室には、私一人きりだ。
幸村くんには、部活があるでしょ、とかなんとか言って日誌を任せて貰うことに成功した。彼は今頃テニスに打ち込んでいることだろう。

さて、後は書き終えた日誌を先生のところに持って行くだけだ。
筆箱を直そうと鞄を開けて、私は例の箱と目が合った。そっと取り出す。

「結局無駄になっちゃったなぁ…」

まぁ、仕方ないよね。
そう呟いて再度箱を鞄に仕舞おうとしたそのときだった。

「何が無駄になるんだい?」

ふと、教室の入口から声がした。
…いや、幻聴だ、きっと幻聴なんだ、だって彼は今テニスの真っ最中なんだから。
うん、そうそう、とむりやり自己完結させて、私は顔をあげた。

…うん、まぁやっぱりそうだよね。
現実はそう甘くない。神様は意地悪だ。

教室の入口には、なぜかブレザーの幸村くんがいらっしゃった。

「ゆ、幸村くん…部活は?」
「今日は早く終わったんだ。それよりねぇ」
「は、はい」
「それ、誰か宛てのプレゼント?」

教室に入ってきた幸村くんが指を差す。あきらかに私が持ったままの箱めがけて指されている。

「い、いや…な、なんていうかその…と、友達に?みたいな…」

おおお私どう考えてもバレバレだぞそれは。友達に?とかなんだその疑問符は。
目は完全に泳ぎまくってさっきから幸村くんは全く見えない。どんな反応されるんだ。されてしまうんだ私。

「友達かぁ。なんだ、残念」

そうなんです残念ですが友達に……ん?残念?

私はガバッと幸村くんの方に顔を向けた。

今残念って言いましたか幸村くん。あれですか私の頭が残念的なアレですか。

「幸村くん…?」
「俺今日誕生日でね」
「あ、えと、お、おめでとう」

うん、知ってる。すごく知ってる。

「今日の朝、俺の下駄箱の前にいたでしょ?だから、プレゼントくれるのかなぁ、ってちょっと期待してたんだけど」

え、期待?
いや、期待なんてしなくても山のようにあったじゃないですかプレゼント。
頭の中で滅法外れた切り返しを繰り返す私。
こんがらがった頭でようやく言葉を絞り出す。

「な、んで?」
「なんでって…」

少し遠くにいた幸村くんが近づく。そして私の座るすぐ前に立って、ちょっと意地悪そうに笑った。

「好きな子からプレゼント、欲しいじゃない?」

頭は完全にショートした。

「あ、え、あ、えっと…」
「ねぇ、まだそのプレゼント無駄?だったら俺欲しいな」

頂戴?と首を傾げる幸村くん。
…こんなの、ずるい。ずる過ぎる。
私は持ったままの箱を幸村くんの方に向けた。多分、今顔は真っ赤なんだろう。

「無駄じゃない…です。幸村くんの、だから、もらってください、誕生日、おめでとう。……後、それから、あの…」
「なぁに?」

幸村くんが屈んで目線を合わせてくる。
とことんずるい。ほんっとに。

「………す、好き、で…す…」

蚊の鳴くような声しか出なかった。
すると、綺麗に笑った幸村くんの顔が近づいてきて、そのままその唇は私のそれに触れた。

「ありがとう。俺も好きだよ。」



両思い記念日
(誕生日、おめでとう)



校門を出て、二人で並んで歩く。
…手はバッチリホールドされている。

「…にしても」
「え?」
「朝引き止めなくて正解だったね、照れてる可愛いところが見れたし」
「……っ!?え、じゃ、じゃあ朝の時に、もう…!!」
「もちろん分かってたよ。でもだって…可愛いんだもん、いじめたくもなるよ」
「いじめっ………もう!意地悪!」






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