「………」
「………」

結局仁王くんと帰ってる。
しかもなんかものすごく壮絶に気まずい。
はじめは電車に揺られながら、この空気に堪えてもいた…が。
そのうちなんだか視界に映すのも気まずくて、私は少し前から窓の方にそっぽ向いていた。
窓の向こうに、夕暮れに彩られた街が映る。

…そういえば、仁王くんに聞かれてたんだよね、多分。
立ち聞きするつもりは無かった、とか言ってたもんね。

「…仁王くん」

私の呟きに、彼がこっちを向いた気配がした。ぱたん、と音がしたことから携帯でもいじっていたのだろう。

「なんじゃ?」
「……さっきの話、どこから聞いてた?」
「…初めから。教室に入ろうとしたら、お前が電話を取ってるのが見えたきに」
「…そっか」

初めからか。どっちにしろ、電話の相手は分かっただろうなぁ、とは思ってたけど。
それから、私はしばらく黙ってたけどその間仁王くんも何も喋らなかった。
私は疑問を投げかける。

「…詮索、しないんだね」
「あそこまで聞いといて、ってことか?」
「うん、まぁ」
「まぁ、全く気にならないかと言われたら嘘になるがのう…そういう手の問題に関しては、俺が知ったところでどうにもならんし。…それに、」

仁王くんが言葉を切った。
気になったから、彼の方に向き直る。

「お前さんが話したくなかろ?」

…正直驚いた。
つまり、多少なりとも私の気持ちを考えてくれていたのだ。
少なくとも、今この瞬間、彼は私の気持ちを尊重した。
…私が尊重されたのはいつぶりだろう。

しばらく思考に落ちていると、遠くで電車のアナウンスが聞こえた。
ああ、私の降りる駅だ。
私は立ち上がり、仁王くんを見る。
彼もまた、立ち上がった私を見ていた。
私は彼に微笑みかけた。
…はじめての事かもしれない。

「仁王くん、ばいばい」
「…ああ」

「……ありがとう」



通いなれた道を歩く。
訳もなく涙が出そうだった。








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