仁王君の頭の中を覗けるなら覗いてみたい。 そんな風に心の中で思っているのは私だけじゃないに違いない。 お昼休み、友達席をくっつけてお弁当を食べながら目線で仁王君を追いかけた。 仁王君は椅子に座って、窓に肘をかけてぼうっと外を見ていた。 何か食べる様子も無く、お昼休みが始まってからずっとそのままだ。 「花月、どうしたの?」 『ん、何でも無い。ぼーっとしてた。』 友達の声で意識がふっと友達の方へと向かった。 花月って時々何考えてるのか分かんないねーなんて友達は笑って言った。 私より、ずっと仁王君の方がずっと不思議だと思う。 私は、仁王君と同じクラスになってから仁王君の事が気になって仕方ない。 銀色の髪は地毛じゃないよね、とか。 テニス部なのにやけに白いなとか。 ぼーっと外を眺めてる仁王君が時々猫みたいに見えるとか。 そんな事ばかり考えている。 だけどその感情が恋なのか好奇心なのかは分からない。 ただ仁王君は特別だった。 ある日の放課後、私は宿題のプリントを忘れて学校に戻って居た。 せっかく途中まで帰ってたのになんてぶつくさ心の中で文句を言いながら教室に入って机からプリントを取りだした。 忘れたら忘れたでいいかもしれないけど、何だか気持ち悪くてそのままにしておけないのは私の性分なんだろう。 『…はぁ…抜けてるんだか几帳面なんだかわかんない。』 「忘れ物?」 誰も居ない教室で独り言を呟いた筈が、窓の方から声が返って来た。 ふと窓の方を見ると、窓から腕をぶらんと教室の方へと投げ出していた仁王君が私を見ていた。 カーテンの影に居たからか、全然気付かなかった。 というか仁王君部活は良いのだろうか。 しかしこんな時間にここで何をしていたのだろう。 やっぱり仁王君は不思議だ。 『うん。』 「意外じゃな。」 『そう?』 「うん。」 淡々と一言二言を交わしていると、仁王君が外へ通じる扉から教室に入ってこっちに歩いて来た。 うわあ、まともに話したの初めてかもしれない。 仁王君の声ってこんなだったんだ、なんて思う。 男子と話してるのを聞いた事はあるんだけど、なんか違う。 「なあ、そのプリント今から一緒にやらん?俺分からんのよ。」 『え、嘘。』 「ホント。」 『私もわかんないよ。』 「二人でやったらどうにかなる。」 そう言って仁王君は自分の席に座って手をひらひらさせて私を手招きした。 一体どうなっているんだろう。 混乱するまま仁王君の前の席に座って、机の上にプリントを出した。 私は成績は真ん中あたりで決していい方じゃない。 だから教えてなんて言われたら困る。 だけどとりあえずやるしかないのだろうか。 そう思って筆箱を取りだしてプリントに向かってみた。 『仁王君はやらないの?』 「ん、見よるからええよ。」 やっぱり仁王君は分からない。 私が何て言ってもまともに会話が出来る言葉が返って来るとは思えない。 仕方なくプリントを進めていると、仁王君はただ私がプリントをしてるのをじっと見てるだけだった。 こんなに視線を感じながら勉強する事なんて普段無いし、 ましてやこんなに近くに仁王君が居る事の実感がわかない。 本当に変な事になったもんだ。 緊張しながらプリントを終えて顔を上げると仁王君の視線とぶつかった。 仁王君の目が優しくて、何だか泣きそうになってしまう。 なんだろ、この感じ。 「間宮は素直じゃのう、ええこ。」 そう言って仁王君の手が私の頭を撫でる。 ああもうやっぱり仁王君は分からない。 仁王君が猫みたいだって前思った事があるけど、今私が猫になっている気分だ。 とりあえずどうしたらいいか分からなくて下を向いていると、帰るぞなんて言われてつられて立ちあがった。 そして少し前を歩いている仁王君が振り返って、ズボンのポケットに置かれていた手を無造作に私の方に差し出した。 「ん。」 仁王君の仕草があまりに自然で、自然と私も手を差し出した。 少し冷たい仁王君の手のひらが私の手を包む。 放課後で、誰も居ない校舎の廊下で私達は手を繋いで歩いていた。 「間宮、好き。」 私はその言葉にただ頷く事しか出来なかったのです。 不思議で特別な人は、そんな私を見て嬉しそうに微笑んでいました。 end ********** あーる様から相互記念にいただきました! もうたまらんです← 特に、プリントわからんから一緒にやろって誘う仁王くんが。彼絶対プリントは楽勝なはずなんで(笑) きっと主人公と一緒に居たいがためにわからないって言ったんだろうなぁ…って考えたら可愛すぎておいしすぎて(^p^) 読めない男な仁王くん萌え! あーる様本当にありがとうございました! |