最終進路決定書。
と、さっきからそれと睨みあったまま動かない幼なじみ。
余りにも長い間そうしてるもんだから、それは一体なんだと尋ねると、決まらないんだよねぇ、と紙を見せられた。
そういやそんなんもあったな、と思い返す。
俺は、第一希望に家業を継ぐと書いただけだったから。
担任はお前の学力なら大抵のところには行けるだろうに、と残念そうな顔をしていた気もするが。

今日は仕事が入ってない。
それを知った幼なじみに、ちょっと相談に付き合って欲しいと頼まれ、ここにいる次第だ。
だが、肝心のこいつはさっきから一人で唸ってばかり。
何のために残ってるんだか、とため息もつきたくなるが、それをしないのはひとえに、相手がこの可愛い幼なじみだからだ。
高校生男子が「可愛い幼なじみ」と言うからにはそれなりにそういう意味も含まれている。いや、むしろそういう意味しか含まれてない気すらする。

暇なので、向かいで未だに唸りつづけるそいつを観察してみる。
…あれ、こいつまた小さくなったか?
そういうといつだって、「厳ちゃんがおっきくなってるだけだもん!」と言い返されるが、相変わらず小さくて細っこくて、俺が全力で掴もうもんならきっとどっか折れるに違いない。
そんなことを考えていた時だった。

「あっ!」

何を思いついたか、急にシャーペンを持って何かを書きはじめる。
そして書き終わると、俺の方を見た。

「厳ちゃん、見て見て!」

言われて覗いて、俺は絶句した。


第一希望:武蔵工務店


「…は?」
ようやく出てきた一言に、花月は少し舌たらずを装って続ける。

「げんちゃん、おっきくなったらわたしのことおよめさんにしてねっ!」

「…って、懐かしいよねぇ…。厳ちゃん覚えてる?小学生上がるか上がらないかぐらいの時にさぁ、言いに行ったら厳ちゃんすごいびっくりした顔してて…」

小さい頃って何でも言えちゃうよね!今考えたらすんごい恥ずかしい!と笑いはじめる花月。

「でも、その後厳ちゃんが、いいよ、おれのおよめさんにしてやるって言ってくれてさぁ、幼いながら嬉しかったんだよ、今でも覚えてる」

なんてね、ほんと、進路どうしよう。
なんて次は困ったみたいに笑うもんだから、ついつい本音が言いたくなって。

「いいぜ」
「へ?」

「俺が貰ってやるよ」

柄にもなくいたずらっぽく笑うと、目の前には顔を真っ赤にした花月がいた。

最終進路希望先
(俺の嫁さんになんて、お前がいいならいつだってしてやるよ)





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