チュンチュン。 鳥の鳴き声がする。目を開けるとひたすら眩しい世界。 私は微かな希望を持って居間へと足をすすめた。 「…やっぱり夢じゃないのね…」 昨日と寸分変わらずそこにある例の茶封筒と手紙に私の希望はあっけなく崩れ去った。 もしもこれがドッキリならきっと今頃ニタニタと笑う両親が現れていただろう。 しかし、今回はそれもない。 私は本当に借金のカタになったらしい。 とりあえず、有り合わせで朝食を済ませて私は改めて手紙を見た。 このアパートは今日で契約切れだ。 つまり、私はこの『跡部さん』とやらの家に行かなければ路頭に迷うわけで。 不幸中の幸いか、このアパートの家具は備え付けなので、心配はいらない。 つまり。 私が今日ここを出ていくにあたって困ることは一つもないのだ。 …こうなったら。 「どうとでもなれ私の人生!!」 こういうところはやはり両親譲りなのだろうか。 ちょっと泣ける。 「これでよし!」 あの後荷造りをすると、持って行くべきものは昔に何かで買ったキャリーバックにすべて納まってしまった。 大家さんにお礼を言って、ちょっとした餞別を貰った。 最後に振り返った我が家は、なんだかいつもより良いものだったように見えて。 「ありがと、ね」 呟いて私は歩きだした。 「で、」 かっこいい感じで家を後にして数十分後。 「跡部さん家ってどこでしょう…?」 私は、完全に迷っていた。 そりゃそうだ、数回しか行ったことのない知らない場所にある知らない家に、こんなテキトーな地図で行けるわけがない。 …お母さんのずぼら具合をここまで呪ったことはない。 「一体これからどうしろと…」 ちらと時計を見ると、もうお昼の1時だった。 一度そう認識してしまうと、なんとなく腹の虫が鳴いた。 ………よし、とりあえずどこかでご飯食べよう。腹が減っては戦は出来ぬ、ひいては腹が減っては家も探せぬだ。 大通りから脇道に逸れて、きょろきょろと辺りを見回すと、タコ焼き屋を発見した。 お腹が減っているせいか、ここ最近有り合わせの生活が続いたせいか、やけにタコ焼きは魅力的に見えた。 …ので。 「いっただきまーす!!」 一つ口に含む。おいしい。いやマジでおいしい。やっぱり店のタコ焼きと家で作るタコ焼きは違うのね。いや、家でも数えられるくらいしかしたこと無いけど。 なにはともあれ、はぐはぐとタコ焼きを食べていると、いらっしゃい、と店のおじさんの声がした。誰かお客さんが来たらしい。ちらっとみると学生さんみたいだった。やけにお洒落な制服だ。きっと良いとこの私立とかなんだろうな…私は一生袖を通すことはないであろう。うんうん。 一人そうごちていると、向こうからタコ焼きを持ったさっきの学生さんが歩いてきた。なんか頭良さそうだ。 すると、学生さんは私の前で止まり、にこりと笑って口を開いた。 「隣、座ってもええかな、お嬢さん?」 「え、あっ、ああはい!どうぞ!」 「おーきに」 かっ、関西弁だ…じゃなくて、この人もしかして世間でいう変な人?なんで私の隣に?しかもお嬢さんって…生まれてはじめて呼ばれたよ。後なんで丸眼鏡なんだろう。 「こんな昼間に制服も着やんと何やってるん?しかもこんな荷物持って…家出?」 「あ、あー…ちょっと、色々ありまして…今、ある人の家を探してるんです」 「家探し?」 「はい…多分この辺りにあると思うんです。跡部さん、っていう人の家なんですけど」 あれ、こんなこと見ず知らずのちょっと怪しい人に話してしまって良いんだろうか。 …まぁ、大丈夫なはずだよね!罪には問われないよね!いざというときは家のア●ムだかセコ○だかでなんとかしてくれ! と、思っていると、怪しい人はきょとん、とした顔をしていて。 「跡部?跡部って……あの跡部か?」 「え、知ってるんですか!?」 「いや、この辺りで跡部、やろ?やったら、あこしか無いんやけど」 「そうなんですか…!…あ、あの、良かったら」 「道案内か?…まぁ、お嬢さん悪いことするような奴には見えんしな。ええで、案内したるわ」 「ほんとですか!ありがとうございます!」 まさかこんなところで案内してくれる人に遭遇出来るなんて!神は私を見捨ててなかったのね!っていうかさっき変な人扱いしてごめん!いい人だ、この人いい人だ! 店を出て、こっちやで、という怪し…くないんだった、お兄さんの隣を歩く。地味に道路側をずっと歩いてくれてる気がする。やっぱりいい人なんだ、紳士なんだねお兄さん!…しかし、お兄さんもちょっと言いにくいな…呼べないしな。 「すみません」 「ん?どないした?」 「良かったらお名前、教えてもらえませんか」 「俺の名前か?忍足、忍足侑士や。…お嬢さんは?」 「間宮花月っていいます」 「花月ちゃんか。かわええ名前やな」 「そうですか?…ところで、忍足さん、学校は?」 「んー?今日はちょっとした集会だけやったから、早よ終わってん。部活も無かったから、久しぶりにタコ焼き食べよ思て」 「なるほど…学校はどちらに?」 「氷帝学園。知っとる?」 「氷帝…あ、知ってます知ってます!あのお金持ちの私立の高校ですよね?」 「確かに金持ちは多いな…跡部に至ってはその最たるなんとやら、やな」 「え?」 「いーや、ほら、見えて来たで、あれや。」 「え…?どれですか?」 「ほらあの。どでかいあれや」 忍足さんが指差す先を見て私は絶句した。 いや、あれ博物館か何かじゃなかったんですか。 ←→ |