「お疲れ様でしたーっ!お先失礼します!」
「はーい、お疲れ様」

今日も慌ただしくバイト先を後にする。
自転車のストッパーを蹴り飛ばし、私は全力でペダルを踏んだ。
目的はただひとつ。

「100g50円…!!」

愛する貴重なタンパク質、鶏肉ちゃんのためである。
今日は2週に一度の大特価、なんとしてでも手に入れなければ…!

***

「あー、良かった良かった!」

今日は白菜も安かった。ついでにちくわも買った。今晩は鍋にしよう。

「ただーいまー…ん?」

電気代が怖いのでまだ電気は付けない。我が家の電気は日が落ちてからだ。
と、私は卓上に置いてある茶封筒に気が付いた。何かと思い手に取れば、それは私宛てだった。ちなみに、字からして置いて行ったのはお母さんだろう。花月ちゃんへ☆とわざとらしく書いてある。嫌な予感がしてならない、むしろ嫌な予感しかしない。
でも、開けない訳にもいかず、私は中をみた。出て来たのは1枚の手紙と、何故か3万円。何故こんな超大金。見るからに手紙が怪し過ぎる。

と、思いながらもやはり読まないわけにはいかない。私は渋々紙を開く。

…そこには、一度読んだくらいでは到底理解できない日本語が並んでいた。え、何これなんて書いてんのこれ。
もう一度文頭に戻ってみる。

『花月ちゃんへ☆


前々から知ってるとは思うけれど、
我が家はパパが作った借金で首が回ってません。

実はついに昨日ここにも借金取りが来て、なんとか帰ってもらったんだけど、
どうしたもんかと公園のベンチにパパが座り込んでたら、なんか目の前に黒塗りのベンツだかポルシェだかが停まって、それがパパが昔カジノで知り合った人だったらしくて

(パパ談)(中略)

紆余曲折、その人からお金を借りる形で私たちは借金取りから解放されました!やったね!
しかもなんか無利子で貸してくれるんだって、もう神様だよね!

でも借りるだけ借りて何もしないのはあれなので、パパとママは考えた末、借金のカタとして花月ちゃんをその人の家にメイドとして献上することに決めました。
ちなみに、今の家は明日契約切れです。だから早めに同封してある地図の場所に行ってね!

頑張って☆

パパ・ママ

P.S.私たちはマグロ漁船に乗ります☆かならず一発釣り上げてみせるから待っててね♪』


もう一度読み返してみても文面は一文字たりとも変わらない。
何度ため息をついても気分は全く解消されない、最悪な事態だが、両親はいないし、よくみればややこざっぱりした室内から考えるに、冗談ではなさそうで。ていうかいまさらだけど(中略)って何。割と大事な局面だったんだけど。

とりあえずもう何も考えたくないので、とにかく今日は寝ることにした。





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