ころん。

口の中でころがる砂糖の塊。
甘く広がるイチゴの味。

放課後の校門前、私は咥内で飴を弄びながらテニス部が終わるのを待っていた。
秋ともなると、日が落ちはじめるとなかなか寒い。しかし待ち人は未だに姿すら見えない。結果、寒さとその他諸々を糖分摂取で慰めているというわけで。
にしても寒い。あー、まだなのかなぁ。

私がうずうずと待ち侘びていると、向こうから猛ダッシュで走って来る赤い頭が見えた。ちらっと時計を見ると、もう6時を回っていた。そして、その赤は私の目の前で急停止した。

「…っはっ、あー、疲れたぜぃ!」
「ブン太遅い。今日は早く終わるって言ったから待ってたのに」
「わりーわりー。でも文句なら赤也に言ってくれよな、あいつが真田怒らせるから俺らまで…」
「はいはい。分かったから早く帰ろ?寒いし」
「ったく、ちょっとは労れよな!」
「あはは、お疲れ様」

ブン太の息が落ち着いてきたのを見て、私は歩きはじめた。すぐにブン太が追いついて横に並ぶ。
もう秋だね、って話を持ち出すと、ブン太はすぐに食べ物の話になる。
まぁ、季節の話とか、何が行事の話をすると、十中八九そういう話になるんだけれど。

「あ、今度の日曜あそこにパフェ食いに行こうぜ、あの駅前の!」
「ああ、なんだっけ…マロンパフェ?」
「そう!看板出ててさ、すっげー美味そうだったんだよなぁ」
「相変わらず食い意地張ってるね〜、まぁいいけど。行こっか」
「さっすが!…ん?お前なんか甘い匂いするな。…イチゴ?」
「あー、今飴舐めてるの」
「えー、いいな」
「ブン太も舐める?えっとね、ぶどうとレモンとオレンジがあるよ」
「…や、いいや」

鞄を漁りながら種類を確認して告げると、ブン太の口から信じられない言葉が飛び出したので、私は驚いてブン太を見た。
なんだと。あの糖分星人丸井ブン太がお菓子の差し入れを断るだと。

「いらないの?」
「…いーや、こっちからもらう」

は?と言おうとした口はブン太に塞がれた。
次の瞬間、私の口は再び自由になったが、口の中にはイチゴの余韻が残るだけ。代わりにブン太の口がコロコロと音を立てていた。

「んー、うまい!やっぱ糖分は最高だぜぃ」
「ちょっ…」

しばらく驚きで何も言えなかった。きっと私はよっぽどぽかーんとした顔でブン太のことを見ていたんだろう。なーにそんなびっくりした顔して。とブン太に言われた。

「だ、だって私の飴…」
「別にいいだろぃ、元々くれるって話だったし」
「じゃなくて!私それ舐めてたのに…新品もあったし」
「…あ、飴取られて不満?」
「いや、そういうことじゃな」

がりっという破壊音と、それに似つかわしくないリップ音はほぼ同時だった。
本日二度目の不意打ち。
私の口にはいびつに半分になったイチゴ味が残っていた。

「あ…」
「ほら、半分こ。な?これでいいだろぃ?」

なんてブン太は笑った。



ときめきはイチゴ味
(返してもらった飴玉が、ひとりで舐めてた時よりずっと甘く感じた)








- ナノ -