「あ〜、疲れた…」

ただ今の時刻6時30分。
ようやくの部活終了である。
マネージャーといえど、なんやかんやとパタパタ忙しくしているとそれなりに疲れる。
しかも、マネージャーにはこの後部活記録を書くという使命が…。
ちょっと憂鬱になりつつもノートを広げる。
さて、今日は…



「………ん」
「あ、起きた」
「え、あ?」
「おはようございます。言うてももう8時ですけど」
「え、はち…?………うぇええええ!!?」

は、ははち、8時!?
と、後なんで財前くんがここに!?

「なんで起こしてくれへんかったん!」
「やって…先輩幸せそーな顔で爆睡してるから」
「そんな爆す…あ!財前くん寝顔見た!?」
「まぁ一応」

なんやって。
ひどい!ひどいわ財前くん鬼や!!
恥ずかしさと敗北感に打ちひしがれてる私を余所に、財前くんはスッと何かを差し出した。
見ると、それは記録ノートで。

「え?」
「これ、最後まで書いといたんで」
「ざ、財前くん…!!」

前言撤回。
財前くんは素晴らしい後輩です。

「ところで先輩」
「はい?」
「先輩、謙也さんとか部長とか、皆名前で呼ぶんすね」
「謙也と蔵?うん、呼ぶけど」
「………妬けるわ」
「はい?」
「…いや、何もないっすわ。先輩どうせ一人でしょ?駅まで送ったりますわ」
「え、え?う、うん…」
「ほんなら早よ行きましょ」

私のかばんを持ってさっさと部屋を出ようとする財前くん。
さ、さっきのって聞き間違いちゃうやんな…?
ってことは…え、うわ、どうしよう…!!

「何固まってはるんですか」
「え?あっ、ま、待って!」

私は慌てて財前くんの背中を追い掛けた。


君が素直な午後8時

その一ヶ月後、恋人になった彼に至近距離で名前呼びを催促されることを、私はまだ知らない。








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