俺のすべてを好きになって
俺の視界に入るのは名前さんと切原の姿。二人とも、仲良さそうに話しよる。ええなぁ。俺の方が付き合い長いのに、俺は一緒の学校なのに。さっきからそんな考えばかりが頭の中を駆け巡る。折角の練習試合なのに、その考えが頭から離れない。切原に嫉妬しよるとか、俺、ダサ過ぎやろ。
「次、試合やで」と謙也さんに呼ばれた。適当に返事して、ラケットを持ってコートの上に立つ。相手は丸井。審判の柳生の合図で試合が開始される。
試合開始早々、丸井はボレーを出してきた。けど、それは読めていた。右足で地面を蹴り、ボールを目指して走った。余裕で届く。そう確信した瞬間だった。
「っ!?」
左足を滑らせ、地面に派手に転んだ。足が痛む気がする。そう思い、体を起こして見ると、左膝から血が流れていた。アカン。今日の俺、ホンマにダサい。
「大丈夫か?」
「あ…はい。洗ってきてもええですか?」
「おう」
俺の様子を見に来た、丸井にそう言い、試合は一旦中止としてもらった。外にある水道のところに行き、傷についている砂を洗い落とした。傷は綺麗になったが、まだ血は少し出ており、左足がヒリヒリする。
自分のダサさに泣けてくる。嫉妬はするわ、怪我はするわ…。アホやな。
「財前!!」
「痛っ」
後ろから聞き覚えのある声と共に頭を軽く叩かれた。振り向くと、救急箱を手に持った名前さんが立っていた。そういや、怪我した時はマネージャーに言えってオサムちゃん言いよったな。
「怪我した時は私に一声かけてよ。これでもマネージャーなんだから。ほら、座って」
それに従い、名前さんに左足を見せる形で座った。名前さんは慣れた手つきで消毒を始める。俺はその手をじっと見つめた。
「なぁ、名前さん」
「何?」
「…切原のこと、好きなんスか?」
名前さんの手は動いたまま。俺もその手をじっと見つめたまま。
名前さん、どんな顔しとるんやろ。気になるけど、見る勇気ないわ。
「好き?」
「あ、異性ってことで」
「切原君のこと好きだけど、そういう意味じゃないよ。切原君を見てるとね、応援したくなるの。頑張れって」
それを聞いて、少しほっとした。
なら、俺は?そんな疑問が頭を過る。そう考えている内に、俺は口を開いていた。
「名前さん…」
「ん?」
「もし、俺が…名前さんのこと好き言うたら…どないします?」
そう言った途端、名前さんの手がピタリと止まった。どないしたんやろうと、チラッと名前さんを見ると、耳まで顔を真っ赤にしていた。
え…?
「なに馬鹿なこと言ってんの。………ほら、終わったよ」
「…ありがとうございます」
傷より少し大きめの絆創膏が貼られた。手当てにより、痛みは少し引いていた。立ち上がって、その場を去ろうとしたが、ピタッと足を止めて、名前さんの方を振り向いた。名前さんはまだ俯いたまま。
「…名前さん」
「な、何?」
名前さんは俺の方を見ない。
「試合、絶対勝ちますんで」
「…頑張ってね」
そう言って、名前さんは俺に笑顔を向けた。その笑顔に心臓が破裂するかと思った。それを隠すかのようにポケットに手を突っ込み、そのままコートへと歩いて行った。
アカン。今、メッチャ幸せや。
20120309 御子様リクエスト
← →
←
|