始まりの場所


「……………あ」

「…久しぶり」


帰宅途中、出会ったのは最悪な奴だった。

森田美樹。

他校に転校したはずのあいつが今、私の目の前にいる。


けど、目の前にいるのはあの頃のあいつとは違った。別に容姿が変わったわけではない。ただ…雰囲気が変わったような…そんな気がした。それに私も心情にも変化があった。あの時はこいつが憎くて仕方がなかった。けど、今、私の中にそんな感情は存在していなかった。


「何?」

「ちょっと…気になったから来てみただけ」

「ふーん」


私たちの周りだけ、時が止まってるかのように静かだ。憎くないんだ。けど…何を話せばいいのか分からない。どうしよう。そう困っていると、森田が座って話そうと言い出し、近くの公園のベンチに座った。


「学校、どう?」

「え?」

「だから、転校先」

「あ…うん。凄く楽しいよ。一からやり直したらね…今まで分からないことがいっぱい分かった。女の子と話すの凄く楽し…あ、私、本当に好きな人が出来たの。そうしたら…今までと違って、その人といるだけで凄くドキドキして…」

「………良かったじゃん」


森田の奴、変われたんだ。良かったじゃん。心から、そう思えた。


「名字さん…柳君とは?」

「は?」


いきなり何を言い出すんだ。一番…聞きたくない名前なのに。


「名字…」

「ん?」

「………俺は…お前のことが…」

「ま、待って…!!」

「…どうした?」

「あ、いや…私、ジャッカルが探してるだろうから行かなきゃ…!!」

「そうか…すまない…」



急にあの時のことを思い出してしまった。あー、忘れろ忘れろ。てか、まだ柳がなに言うのか分からないのに、あんなこと言う私って…自意識過剰にもほどがあるでしょ…!!


「どうしたの?」

「え…あ、いや…柳とは変わらず仲いいよ」


…そんなこと言ってるけど、あれ以来、話していない。私が避けているし、柳もそれを察し、私と距離を置いている。これからも友達でいるって…約束したのに。


「ふーん」

「何、その疑った目…」

「私、散々演技してたからね…そのくらいの演技なら見破れるんだ」

「え…」

「柳君と何かあったくせに」


森田は呆れたと言わんばかりの顔をしている。ああ、ムカつく。何で久しぶりに会って、こんなこと顔されなきゃならないんだ。

けど、森田の態度は正しいだろう。私、ホント…何やってんだろ。


ずっと柳はいい友達だと思ってた。これからもずっとそうだって思ってた。けど、あの時、柳の話を止めて気付いた。

私、柳のこと、好きなんだ。

ああ…馬鹿。本当に馬鹿だ。もう何やってんのか分かんない。


「うるさいな…」

「バーカ」

「なっ…!!」

「好きなら好きって早く言っちゃいなよ」


何でお前にそんなこと言われなきゃならないんだ。それに……………


「それ…ジャッカルにも言われた」


◆◆◆


あの後、森田とはアドレスを交換して別れた。何やってんだろ。少し前まで凄く憎かった奴とアドレス交換なんてしてさ…まぁ、いいや。あーあ…私もお人好しになったなー…。


「名字」

「あ…」


森田のことは置いておこう。今は…自分の言わなきゃならないことを言わなきゃ。


「急に呼び出してごめんね」

「いや、構わない」


私たちが初めて出会った場所。あの時の状況は最悪だった。けど、今は違う。


「何か用か?」


そう聞いてくる柳だけど、表情からして私が何を言うのか分かっているようだった。だよね、柳だもんね。分かっていて私に聞いてくるなんてSだね。まぁ、そういう柳も好きだけどさ。


「私、柳のことが好き」


そう率直に言うと、柳は「俺もだ」と短くそう言い、笑った。私もつられて笑った。


20111010
和泉様リクエスト