※感情のコントロールが上手く出来ないアンドロイドサイケのお話





俺達は、人を和ませたり機嫌を取ったりする為に作られた"アンドロイド"と名の付けられている機械だ。人は俺達を人形と呼んだ。好きで機械に生まれた訳じゃない、否、しかし機械が何に生まれたかったなどという尊厳は果たしてあるのだろうか、白い部屋に入れられた俺は何の歌かもわからないインプットされていた曲を歌っている白い部屋に居た冬の時期
歌をうたうことは嫌いじゃなかった、多分そういう風に作られているからだ。ならば今考えていることも全て研究者がインプットした言葉なのだろうか、恐怖が体を取り巻いた。何もかもが作られた自分、怖くて怖くて早く壊れてしまいたいと思っていた白い部屋で過ごした年明け
隣の部屋に新しい機械がやってきた。名前は津軽と言うらしい、口数は少なかった。研究者はまだ未完成と言っていた。そして漸く部屋が透明なガラス張りだったと気付いた新しい春
津軽は次第と俺に心を開いてくれた、だけどやっぱりまだ口数は少なく未完成だと研究者は言っていた。だけど津軽と居る毎日が楽しかった。津軽の為に歌をうたえば津軽は褒めてくれた、ガラス越しで優しく頭を撫でてくれる、そんな寂しさの消えた梅雨
スランプ期間に入った、何もできない何かをすることが怖い、機械であることが絶望的だった。暫く動いてる実感がしなかった、喋る事が出来なかった、至る所に繋がれたコードから色々な情報が送り込まれる。容量の大きさに次第と体が熱くなっていくのを感じた長いスランプ期間
スランプを越えると津軽が居なくなっていた。未完成を完成させに行ったと研究者は行っていた。それからまた部屋の隅で蹲り歌う生活が始まった。だけども何時まで待ったって津軽は帰ってこなかった、気付いたら一人だった何時の間にかの秋
やっと津軽が帰ってきた、変わらない何時もの優しい津軽。歌をうたうと褒めてくれてガラス越しから俺の頭を撫でてくれる津軽だった。嬉しかった、またそれから津軽といっぱいお喋りをしたりした、また二人になれた何回目かの冬
外に出た事が無かった、初めて見たのはこのガラス張りの部屋。そこには臨也と名乗る男の人が居て俺をサイケと呼んだ、だから俺の名前はサイケ。臨也は俺の頭を優しく撫でて少し待っててね、また来るから、と言ってどこかへ行ってしまった。あれから臨也はここには戻って来なかった、嘘つき嘘吐き嘘つきと何度も嘆いている夢を見たクリスマスの前日
朝起きると津軽がガラス越しで俺を心配そうに見つめていた。どうやら夢を見ていたうなされていたらしい、だが一体機械は夢など見るのだろうか、いくら考えても機械の頭では答えなどでなかった。インストールされた言葉と歌と考えだけをループしてばかりだと何時までも気付くことの出来なかった年明け





歌うと気分が良かった、そういう風にインストールされているからだ。好きな曲とかはなかったが歌っていること自体が好きで好きで仕方なかったからずっと歌い続けていた。飽きる事は当然ない、毎日毎日新しい歌がインストールされて歌うのが楽しくて機械で居れる事が誇らしくて誇らしくて仕方がなかった
インストールされた感情に満足して、足りない機械の頭でインストールされた考えだけをする、そんな貧しい考えで俺は満足をしていた。けれども、自分で貧しい考えとか可哀想な機械などと思う事はなかった
とある時、津軽に問われた。
今の自分に満足してるか、津軽にインストールされた疑問ではなく津軽自身が生み出した疑問であった。津軽は機械として未完成だ、だけど、人間としては完成された機械だった

「羨ましい…、」

人間として完成された津軽が羨ましかった、豊富な考えを持つ津軽が羨ましくて羨まして仕方がなかった。機械として自慢する事も誇りを持つことも出来ない人間の考えが羨ましかった
インストールされた事ばかりを繰り返して機械としてしか見てもらえない、所詮ガラクタの部類に入るこの姿を今まで誇らしく思った自分が今は哀れな操り人形にしか感じなくなってしまった。ヘッドホンから流れる曲が雑音にしか聞こえなくて不協和音の如く気分が悪くなっていく。苛立ちを含ませるようにヘッドホンを片手で掴み引き剥がせば広がるのは静寂のみが広がる
恐怖が体を取り巻いた、じわりじわりと脳がいたぶられるような感覚になり機械の奥から熱が帯びていった





(誇りとは一体何だろうか)
(自分とは一体何だろうか)
(他人と自分はどうして違うのだろうか)
(自分は何故こんなにも劣っているのだろうか)



2010.07.24


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