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僕と彼女と子猫


 ナマエが友人から預かったという子猫は、ナマエの胸元に抱かれながらいよいよ喉をごろごろと鳴らしはじめたかと思えば、ナマエのニットに甘く爪を引っ掛けるようにして、前脚を交互にふみふみとしはじめて……
 ああああ……!! 僕だって触ったことないのに!!

 ……じゃなくて!! は、恥を知れよ!?

 ニットが、ほつれちゃうんじゃないか?
 そんなことお構いなしなナマエにそう伝えれば、だって子猫なんだからしょうがないよ、なんて笑う。

 猫になれば僕だって、堂々とナマエに触れて……こうしてごろごろ甘えることができるのかな、なんて。
 いつも僕の理性が人として弁えろと本能の邪魔をする。
 猫になってみたいとさえ思わせてしまう、この行き場のない、募るばかりの思い。


「ふふふっ! くすぐったいなぁ!
 残念だけどミルクは出ないよ?」

「え!? そうなの!?
 あ、いや、そうだよな……ごめん……」

「……子猫はね、こうしてお乳の出をよくしていたり、母猫に甘えているんだよ」

「その……ナマエは許すのか? 甘えても……」

「許すもなにも、まだ母猫が恋しい時期に引き離されちゃうんだし……
 私でも甘えてくれるのなら……ふふっ、いーっぱい甘えさせちゃう。
 それに、甘えてくれるのはなんだか嬉しいしね。
 ……う〜ん、可愛い!」

「そう……か……」


 目を細めて子猫に頬擦りし、顎に差し入れた指先で喉をこちょこちょとくすぐるナマエ……


「じゃあ、僕も……甘えさせてくれたりする?」

「……え?」

「い、いや、ごめん!
 なんでもないんだ。……忘れて?」

「……珍しいこともあるものね?
 私も後でマルコに甘えさせてくれるなら……いいよ」

「ははっ、そ、そっか。
 じゃあ……順番だ」


 子猫を妬まし気に見つめながらつい、口をついて出てしまったちょっと情けない提案ではあったけれど。
 ナマエの隣に腰掛け、子猫を抱くナマエを包むようにしてそっと……肩と腰とに腕を回した。
 すっぽり腕の中におさまってしまう華奢な身体は温かかったけれど、まるで子猫の名前のようにふわふわと頼りなくて……頼むから何処かへ飛んでいってしまわないでおくれよ、と。
 どくどくと騒めく胸の音が伝わるのもいとわず、むしろこの高鳴りが伝われとばかりに強く、ぎゅっと、抱きしめた。
 丸い肩に頬を寄せ、目を閉じながら、まあ結果オーライだと、なるようになれと、甘い香りに酔いながら……情けない僕を有耶無耶にした。

 きっかけを与えてくれたこの小さな小さな子猫に、僕も指先で喉元を撫でてやろうとしたら……

……何故だろう、僕の指はがじがじと甘噛みされてしまうのだった……


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