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ジャンとマルコとソウルメイト


 今日でテスト週間も終わり、打ち上げ……というよりむしろ私の場合は反省会というべきかもしれないけれど……とりあえずお疲れさま会ということで、また夕食を兼ねてマルコの家へジャンとお邪魔していた。
 とりあえず今日も三人でたらふく食べ終えて、さぞかしお疲れだったのだろうか、暖まった部屋と、満腹であることも手伝ってか、マルコはうつらうつらとこたつで船を漕ぎはじめた。
 少し寝かせてあげようと、隣のジャンと目配せし、立てた人差し指を口元へ当てた。

 頬杖をついて、手持ち無沙汰にみかんを積み上げるジャンの目までとろりとし始めて、いよいよマルコからもすうすうと規則正しい寝息が聞こえてきたところで、私が肩に掛けていたマルコのブランケットを、彼の肩にそっと返した。


「ふわぁ……あ、マルコの奴、寝ちまったな」

「……うん。
 テスト期間中でもちゃんと家事も炊事もこなしているんだから、すごいよね」

「そうだな」


 将来の夢を叶えるべく、この辺りではこの学校にしかない専門学科に通いたかったと言うマルコは、入学当初こそ早起きして電車を乗り継ぎ、自宅から通学していたものの、やはりそれも三年間となると厳しいのではと、それに、ひとり暮らしの経験もしたほうがいいだろうと、ご両親の賛同を得て実家を出ていた。

 生真面目な彼らしく、小ぢんまりとした1Kはいつ訪れても小綺麗にされていて、更にはマルコのこの性格だから私達も居心地がよくて、ついつい、お呼ばれすればこうして、喜んでお邪魔してしまっている。

 目標があり、そのための努力を怠らない彼はこうして、着実に成長していくのだろう。
 向上心の高いマルコと居ると、私も何か目標を据えなければ、と思わずにいられない。
 置いていかれないように……と思うのはもちろん、頑張るマルコは私達に相乗効果をもたらしてくれていると思う。

 そんなマルコの肩に、お疲れさま、とブランケットを掛けて、それまで座っていた向かいの席から、重ねた両手を枕に、左のほっぺを潰しているマルコの右隣に移る。
 同じように重ねた両手に顎を乗せ、寝顔を眺めていたら……向かいのジャンから溜息が聞こえた。


「お前……本ッ当にマルコの事好きな」

「……ジャンこそ」


 ジャンだってマルコのこと大好きなんだから、そこはお互い様。

 俯せて、鼻先を埋めるような体勢が呼吸を妨げるのか、すうすうと聞こえていたはずのマルコの寝息がいつの間にやらぷすぷすと可愛い音をたてていて、つい笑ってしまう。


「マルコのことね、ふふっ、すごく好きだよ。大好き」

「……おいコラ、こっ恥ずかしい事言ってんじゃねえぞ?」

「うん、そうだね。
 でも……どうしてかな、不思議と離れ難くて……」

「いや、お前等、意外と……前世からの仲、ってやつだったりしてな」


 恥ずかしい事を言っているのはジャンの方ではないか、と目を見張った。
 けれど、ジャンはいたって正気のようで……相変わらず眠たそうではあるけれど。
 現実的だと思っていたジャンの、ロマンチックな発言に驚いてしまったけれど、そう言われてみれば案外、そうだったりするのかも……と、妙にしっくりきてしまった。

 そうすればこの説明のつかない、マルコに対する言い知れぬ感情も納得がいく。


「ベターハーフ……か。案外そうかもしれないね。
 でも、そのくらい、会えてよかったって……安心してる」

「……」

「もちろん、ジャンもだよ」

「俺はついでかよ」


 ジャンの積み上げたみかんを剥いて、ひと房、への字になったジャンの口唇に押し当てる。


「お前……このあいだもそうやってみかんで俺を黙らせようとしたな?」

「ううん。
 みかんの房の感触はね、口唇と似てるんだって」

「んなっ!?」

「……ね、ジャン。キス……する?」

「キ……っ、す、するわけねえだろうが!」

「うん、知ってる」


 拗ねたジャンをひとしきりからかって、こたつの中でこっそり触れ合わせている膝を感じながら、みかんの房を自分の口元にも押し当てて……ちょっと違うなぁ、と思う。

 そんな私達の間で寝息を立てているマルコはひたすらに無防備で、卵を抱く母鳥のような、ふわふわの羽毛で包んでやりたくなるような……そんな気持ちになる。
 インプリンティングではないけれど、目が覚めた時、私の姿をいちばんに見つけてもらえるように。
 今生に生を受けるまで、長い長い夢の中でも私と在ってほしい。
 私の夢にも現れてほしいと、夢の中でも一緒に居たいと願う、切ない気持ちとうらはらに、その眠りはいつも穏やかで、安らかなものであってほしい。

 

 いよいよジャンの顎が頬杖からかくんと外れて、それまで規則的に続いていたマルコの寝息も乱れ、眉間には皺が寄った。
 うっすらと開いた焦点のあわない琥珀色が、やがて私を認めてふにゃりと蕩けた。
 寝起きの少し掠れた声で、私を呼んで……


「ふぁ……寝ちゃった、ごめん」

「ううん、大丈夫」


 ああ、やっと起きやがったか……
 俺にも眠気がうつっちまって、もらい欠伸。
 前髪の寝癖をナマエが撫で付けてやれば、まだぼんやりとしたマルコは手なづけられた猫かなんかのように、ナマエの手のひらになすがままなどころか擦り寄るようにさえして、そのまま細っこい手首を掴み、ナマエの肩口に額を寄せて、体重を乗せた。


「ちょ……っ、マルコ!?」


 唯一自由になる片腕を突っ張ったナマエが、なんとか押し倒される前に俺がいることを伝えれば、そのまま斜め四十五度まで傾いていたナマエの背中に腕を回して抱き起こしながら、よいしょ、と自分の居住まいも正した。
 俺の方を向き直り、ごめんね、寝ぼけちゃった、なんて首筋をさすりながら笑っていやがるが……なんだか、親友の女のベッドへの誘い方を目の当たりにしてしまったようで、いや、実際はどうだか知らねえが……って、おい、気まずいのはまた俺だけか!?


「ああ、これ……か。ナマエの匂いがしたんだ」


 肩に掛かっていたブランケットを手繰り寄せて、先程までの束の間の眠りを名残惜しむように、さらに包まるようにして顔を埋めていたマルコだったが、ブランケットを大きく広げると、今度はナマエを巻き込んで……二人でブランケットに包まった。


「ふふっ、これ、掛けてくれてありがとう」


 そのまま二人で額を突き合わせるようにすると、ブランケットをナマエの肩に残し、マルコだけそこから抜け出した。

 どういう訳か、俺はこのリア充共に弱い。
 当然、ナマエは顔を真っ赤にしているが、やっぱり、なんだか、この素タラシをからかってやらないと気が済まなくて……

 もう冷めちまっただろうコーヒーを口にしたマルコの後ろ頭を腹いせに小突いてやれば、案の定、口元をコーヒー塗れにしていた。

 こうして、ごく当たり前のようになってしまっている三人で過ごす時間だが、まあ、悪い気はしないよな。

 さて、転がったみかんをカゴに戻そうと手に取り、思い出すのは口唇に残る感触と……あ、そういえば。


「なあ、去年のゆるキャラグランプリ11位、マルコに似てねえか?」

「ええっ!? やっぱりマルコってゆるキャラだったの?」

「やっぱりって……なんだよそれ……」


\はじをしれよ!/ 



 葉っぱの部分を黒くしたら、「まるきゃん」だと思うのです。

 バレンタインのイラストに素敵なシチュエーションを教えてくださいました方と、このサイトへいらしてくださるソウルメイトなみなさまへ、ウイークエンドシトロンより愛を込めて。


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