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ひとりで初詣


 一人でも歩いて来られる神社といえば、学校近くのここだろう。
 夏に日陰を求め、ジャンとマルコと三人でアイスをかじった参道のベンチを過ぎながら、あれからもう何ヶ月も過ぎているのかと思うと、月日の流れはなんと早いことか……などとしんみりしてしまう。
 うん、毎日を大切に過ごさなくては。
 あまりに蒸し暑く、押し黙っていたジャンがキレるほどの蝉時雨だったあの日とは打って変わって今はしんとして冷たい、針葉樹の立ち並ぶ参道を行き、石段を上って境内に差し掛かる二つ目の鳥居の下にいた見知った顔に、しかしその見慣れない出で立ちに心臓が踊って、駆け寄った。

 

 寂しいけれど……年末年始は家族と過ごすべきだ。
 普段、親元を離れて一人暮らしをする彼は特に。

 ジャンも誘ったけれど、3Pは御免だ! などと滅相もないことを言われて断られたイブはそれでも二人で過ごし、クリスマスに駅まで見送ったマルコは残りの冬休みの間、実家へ帰っているから一人で、厳かに。
 そう決め込んで訪れた神社の境内で、着物姿の、あれは……


「ミカサ! あけましておめでとう!」


 こくりと頭を下げ、ナマエ、おめでとう……と返してくれたミカサは今年もクールビューティーだ!
 でも……


「ミカサ、ひとりなの?」


 またこくりと頷くミカサの髪には紅い椿の髪飾りが挿されている。
 それは艶やかな濡れ羽色のミカサの髪にとても映えていた。


「エレンは来ない」

「どうして?」

「この、着付けをしてもらっている間に……友達と行ってしまった」

「じゃあ、私と一緒に行こう?」

「ナマエ……ありがとう。
 でも、アルミンが呼びに行っている。ので、私はここで待つ」


 そうだよね……こんなに綺麗なミカサ、誰だって放っておけるわけがない。
 こうしてミカサと話をしたり、写真を撮らせてもらう間も、うっとりと溜め息がこぼれてしまうほどだ。
 これは是が非でも、私が心から応援する彼に、なんとしても見てもらわなければ!
 だから、どうか届いて! 間に合って!
 そう思って、添付して送信したのはあえてミカサの後ろ姿。
 どうか見て、君の目で。改めて気持ちを確かめて。
 一年の計は元旦にあり! だよ。
 マルコが風邪をひいたあの時……あんなに走るのが速かったじゃない。
 私のこの一年の幸運を今、彼と彼女の出会いにすべて捧げてもいい。
 そう祈るように握りしめた携帯。
 少しの時間でいい、エレンより先に、間に合って……
 今年のおみくじだって引くのが怖い、なけなしの私の運だけど……どうか神様!

 

「なんか知んねーけど……急げって。お前んとこには連絡ねーの?」

「うん。ナマエ、どうかしたのかな? まあ、どっちにしてもこの寒い中、あまり待たせたくない……かな」

「ああ、そうだな……しゃあねえ、急ぐか」


 添付されていた写真は、着物の誰かの後ろ姿。
 明らかにナマエではないし、背景からしてあの神社の境内であることも間違いなさそうだ。

 年明け早々、参考書を借りながらそっちへ行ってもいいかと連絡を寄越してきたマルコ。
 もちろん二つ返事で承諾した、暇を持て余していた俺だが、そんな俺の元にだけ届いたナマエからの連絡。
 俺より、参考書なんかの前に、あいつに会いに行ってやったらいいのに……と思い、マルコを責っ付いてやるが、彼女も家族と過ごしているだろうし……なんてまたいい子ぶりやがって。会いたくて仕方ねえくせに。
 しゃあねえ、俺がこいつ、連れてってやるから待っとけよ?

 

「ジャ……! ん? あ、あれ? マルコ!?」

「うん。ナマエ、あけましておめでとう。今年もよろしくね」

「……マルコ! どうして!?」


 抱き着きたいのを我慢しているかのような二人は両手をきつく握り合わせていて、その微笑ましさに、ああ、遠慮せずやっちまえよ、とさえ思う。

 こいつらがはじめて会った時を思い出す……
 まんまるにした目を、お互いから離すことができないでいた。
 恋に落ちる瞬間を目の当たりにした、と思った。
 ま、俺もあいつらの事、言えたクチじゃねえけどな。
 ナマエと鳥居の下で待っていた着物の女は……ミカサだった。
 ったく……ナマエの奴、余計なことしてくれてんじゃねえよ。
 それでも、せっかくナマエの作ってくれたチャンスだ、礼を言いながら……いまだマルコと手押し相撲かと突っ込みたくなるナマエの背中を、マルコに向かって力任せに押した。
 ようやくマルコの腕の中に収まったナマエと、慌てながらもしっかりキャッチしたマルコを横目に……
 俺もミカサに、年初めの挨拶を。

 

「会えないと思ってたから……どうしよう、すごく嬉しいな。マルコ、大好き……」

「うん……僕も。僕もナマエが好き。大好き。」


 二人でジャンとミカサを見守りながら、マルコのコートのポケットの中で繋いだ手をぎゅっと握り、そっとマルコの肩に額を寄せる。
 この、控えめながらも痛いほど、切ないほどに伝える、伝わる思いが、今年も私の抱負になりそうだ。

 そして、この美しい思い出が、ジャンの記憶にずっと、色鮮やかに残ったらいい。

 この後すぐに、息を切らして石段を駆け上がってきたアルミンと、エレンが、結局ジャンとまた言い争いをはじめてしまって……この美しい思い出は、美しく残酷な思い出へと変わってしまうのだけれど。

 一年の計は元旦にあり……ねえ。

 私はとりあえずこのマルコと繋いだ手を、離したくないや。
 そして、ジャンとマルコと、私の願いを聞き届けてくれた神様にも感謝を。

 ……お賽銭はずめなくてごめんなさい。



 あけましておめでとうございます!
 みなさまにとって今年も素敵な一年でありますように……

 10,000HITアンケートの「マルコと彼女がジャンをお手伝い(賑やかし)」といった内容のメッセージからヒントを得させていただきました。
 だいぶ違った話になってしまいましたが……ありがとうございました!

 今年もウイークエンドシトロンをよろしくお願い致します!


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