ジャンとマルコとこたつ 「先週末に実家に帰った時、運んだんだよ」 「わー! こたつ!」 三人でスーパーのレジ袋やらエコバッグやらを提げてお邪魔したマルコの部屋のテーブルが、こたつに変身していた! うん、冬はやっぱりこたつ! だよね。 三人で鍋でもしようか、と、声を掛けてくれたマルコに二つ返事で、喜び勇んでジャンとお邪魔したわけだけど、まさかこたつのおもてなしまであるなんて! 横でやけに大人しく靴を脱いでいるジャンが怪しいと思っていたら……あーっ! 次の瞬間、こたつにスライディングしていた! ぬけがけ! 「ジャン! ずるいじゃん!」 すでにこたつから顔しか出ていないジャンから、るせー! と聞こえる。 自他共に認める寒がりのジャンが入っているところから隣の角に入ろうとしたけれど、肩まですっぽり入ったジャンがどうにも邪魔だ。 「ジャン、足が伸ばせない……蹴っちゃうよ?」 「うるせ、早いもん勝ちだろ」 「……なによ、そっちがそのつもりなら……」 ◇ 三人でスーパーに寄って、買い出ししてきたものを冷蔵庫にしまってから、みかんをカゴに盛って……やけに静かになったこたつの方を見遣れば、こたつの同じところに並んでうつぶせて、肩を寄せて顔を出すジャンとナマエがこっちを見ていた。 「……君たち、なんでそんなに仲がいいかな……」 「早く早く! マルコもおいでよ!」 「……はいはい」 身体を起こして手招きするナマエの背後から、ナマエをすっぽり足の間に入れるようにして、こたつに入ってやる。 ジャンを押し退けながらナマエのお腹に両手を回して、肩に顎を置く。 「マ、マルコ!?」 「キツイ! キツイって! イチャイチャなら他所でやれ!」 こたつの一所に三人も入ったらそりゃぎゅうぎゅうだろう。 嫌な顔を隠そうともせず、しっしっと手で追い払うジャンに、耳まで真っ赤にしたナマエがなんだか可笑しくて、意地悪したつもりなのについ笑ってしまう。 「ははっ、それじゃあジャンはほら、ちゃんと起きて! ナマエはここね。 僕はこっちにいくから」 「……はーい」 ◇ 相変わらずマルコの仕切りスキルは半端ない…… さっき買ってきた早生みかんをマルコがカゴに盛ってくれたので、三人で大人しく手を伸ばした。 鯛焼きも買ってきたけど、先に鯛焼きを食べてしまったらみかんが酸っぱく感じてしまうので、まずはみかん。 それからクラフトの紙袋に三匹収まった鯛焼きを、冷めないうちに二人にも渡す。 鯛焼きとキスして、頭から食べるのは私のこだわりだ。 でも、鯛焼きの尾びれをくわえたジャンと、両手でつかまえた鯛焼きを今にも頭からかじろうとしていたマルコが、口をぽかんとあけたまま私を見ている。 「……え?」 「鯛焼きにキス……するの?」 「うん。美味しく食べられてね、って。 あ、あれっ? しない?」 「なんだよそれ、聞いたこともねえよ」 「……ははっ、妬けちゃうなあ」 妬けちゃうって……鯛焼きに!? や、やだ、またそんな可愛いこと言っちゃうマルコには後でこっそりキスしよ! と、ひとり心に誓う。 だって、今晩は三人で鍋パーティーなのだ! とりあえずあんこたっぷりで評判のお店の鯛焼きを平らげて、ようやく鍋の支度に取り掛かる。 こたつから出ないジャンを、手伝わないと夕飯抜きだと言って引きずり出す。 育ち盛りを若干過ぎた気もするけど……我々の食欲はまだまだ旺盛だ。 大根、人参、葱に白菜……と、野菜を刻んで、肉やしらたき、豆腐も鍋に盛って…… そうだ、ひとつだけ人参を飾り切りにして、「当たり」人参を忍ばせてから……火にかける。 今日の鍋はオーソドックスに水炊きだ。 うん、楽でいい。 あとは炊けるのを待つだけ! ◇ しゅんしゅん音を立てる鍋からの蒸気で、室内もだいぶぽかぽかと暖まっている。 もうひとつみかんに手をのばしながら、鍋が炊けるのをこたつで待つ中……さっきから右のマルコと左のナマエの様子が怪しい。 見つめ合ってはにやにやてれてれ…… こたつ布団を勢いよくめくってやったら、二人の両手が遠赤外線の中でラブ握りだクソッ。 「……リア充爆発しやがれ」 剥きかけのみかんを投げ出し、こたつに伏せって力無く呟けば、マルコがよしよし、なんて俺の頭を撫でて、投げ出したみかんは引き続きナマエが剥いて、俺の口に一房押し込んだ。 つくづくおかしな関係だよな……と、みかんを咀嚼しながら思う。 どう見ても俺が邪魔者なんだが、二人は俺がいないとつまらないと言う。 ……おい、それってもしかしなくても俺……当て馬ってやつじゃねえか!? っていうかまた馬かよ!? くっそ……来年の干支なめんな。 ◇ 鍋でお腹も膨らみ、水炊きのしめは雑炊で決まり! マルコがご飯と溶きたまごを混ぜ入れて、刻み葱を散らして……蓋を開けた時は湯気と歓声が上がった。 三人で仲良くごちそうさまをして、洗い物も鍋とお玉、湯匙とお箸が三膳だけだからすぐに終わってしまった。 せっかくぽかぽかと暖まった部屋から寒い外に出て帰るのは、マルコとの別れもあいまって……私には相当辛い。 そんな私にマルコは、僕も一人になると寂しいよ、と、目を細めて髪を撫でてくれた。 「二人とも、風邪ひかないようにね」 「おう」 玄関で、目元までマフラーでぐるぐる巻きのジャンが靴紐を直している一瞬の隙をついて、マルコにキスされた。 鯛焼きに先を越されたままだったからね、と笑ったマルコは、私がこっそり心に誓っていた願望まで叶えてくれた。 そうだ、今日のマルコはついている……お星さまの飾り切りの「当たり」人参は、マルコの湯匙で輝いていた。 「……また、しようね?」 それは鍋パーティーのことなのか、それとも別のことなのか……マルコは曖昧に笑っていたけれど、そのほっぺたは赤く染まっていた。 |