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ジャンとマルコとテスト前


 テスト前のこの時期、マルコの部活も生徒会も休みで、ナマエも女だけで勉強会だかなんだかでいないらしいので、久々にマルコの家に来ていた。
 テスト前はこうしてマルコの家に上がりこみ……俺の場合、一夜漬けのテスト勉強に勤しむのが常だったが、マルコの中でだんだんナマエの存在が大きくなって、ナマエがこの家に時折訪れるようになってからは遠慮していた。

 あいつらは、他と違ってわきまえているのか、人前であまりベタベタしない。
 それでも、こうして久々に来たマルコの家で、開封済みの避妊具の箱なんか見つけてしまった日には、ああ、あいつらもちゃんとヤることヤってんのな……なんて。
 くそっ、リア充爆発しろ。
 ちょっとからかってやんねえと気がすまなくて、その避妊具の箱を、参考書とにらめっこするマルコの目の前で振ってやれば……思ったより軽い音がする。


「……オイ、ずいぶん減ってんな」

「!? ちょっ…! や、やめろよジャン」

「お前ら……いい子のふりしてヤることもきちんとヤってんのな」

「……っ、そりゃあ……
 ジャンだって……そうだろ?」

「あー、まぁ……そうだな」

「それに……ナマエ、すごく可愛いし……」


 うわ、さらっと惚気やがった、こいつ。
 手にした箱をぽいっとベッドの上に放り投げてから、ああ、こいつら、このベッドで毎度ぎしぎしあんあんヤってんだよなぁ……なんて、生々しいもんを目にした途端これだ。
 ああ、くそっ、俺の思春期!


「ジャン? 集中力が途切れてきたんだろ。
 一度休憩するかい?」

「お、おう……」


 それからというもの、ローテーブルに広げた教科書一式の上に突っ伏して、マルコの顔を覗き込む。
 俺より一歩先に進みやがったマルコ相手に、いわゆる、その、ボーイズトークだ。


「その、やっぱ、イイ……のか?」

「ん? 何が?」


 ……出た。
 こいつの、この年頃にあるまじき、こういった方面での鈍さに悪態つきながら、そっちがそのつもりなら……と、あえてストレートに攻めてやる。


「ナマエとのセックス」


 口に含んだコーヒーを吹き出しそうになったのか、隣のマルコから変な音がする。
 ははっ、ざまあみやがれ。


「うっ、ぐ、そ、そりゃあ、ね、ごほっ、すごく……」


 その時、軽快な音をたててインターホンが鳴る。
 まだ噎せながら、ご丁寧に俺に小さく詫びを入れて、玄関に向かうマルコを見送れば……


「ナマエ! どうしたの? 上がって」


 ……うわぁ、噂をすればなんとやら、だ。


「ごめんね、来ちゃった」

「それは勿論、いいんだけど……」

「今日の勉強会ね、英語を教えてもらうつもりだったクリスタが途中で用事ができちゃって……お開きになっちゃった。
 場所がここから近かったし……あ、よかった、ジャンもいるんだね」

「うん、いるよ」

「ごめんね、ジャン。お邪魔します」

「おー」

「ね、あのお店のシュークリーム、買ってきたよ。
 頭に何か叩き込むときはまず糖分! だよね!」

「待ってて、ナマエのコーヒーいれるから」

「ありがとう、マルコ」


 にこにこと笑いあうこいつらからは、やっぱりエロい雰囲気なんてこれっぽっちも感じられなくて……
 ベッドの上に投げられたままだったゴムに気づいて、慌てて掛布の中に押し込む。
 使いまくった当人どうしが揃ってるってのに、まったく、ゴムのほうが自重しろってくらいほのぼのとしてやがる。

 ナマエが「じゃーん!」とか言いながら俺の目の前で開けた洋菓子店の箱には、シュークリームがきちんと3つ。
 なんかちょっと聞き捨てならねえ効果音な気もするが……まあ、でも、こういうところが、マルコがこいつを好きな理由のひとつなんだろうなあと、漠然と思う。
 こいつの気遣いは雰囲気を円くする。


「ね、ジャン、捗ってた?」

「いーや、あんまり」


 でも、あんな会話の後でナマエを直視することなどできず、つい伏せったまんま、ぶっきらぼうに答えてしまった。


「ジャンはやればできる子なのにね、いつもテスト前日しか勉強しないから……
 それなのにいつも成績がいいんだからずるいよね! 羨ましい!」

「はぁ? お前にはマルコ先生がいんだろ」

「マルコは意外と努力の人だよ?」

「まさか、保健体育しか教えてもらってないのか?」

「もうっ! ジャンのおじさん!」

「ちょ、待て!」


 思春期飛び越しておっさんかよ!
 キッチンからコーヒーのいい香りと……マルコの笑い声が聞こえた。

 それから3人でシュークリーム食いながら、女子の勉強会にミカサはいなかったとか雑談。
 まあ、あいつには首席のアルミンと……エレンがいるもんなぁ……
 俺の恋路を応援するつもりらしいこいつらは、こうして、なんでもない会話にそれとなく情報を混ぜこんでみたり、これまでにエレンの野郎が羨ましいやら腹立たしいやらで、とにかく悔しい思いを何度もしてきたが、その度に俺をなだめては、愚痴にも気晴らしにも付き合った。

 ああ、それってなんつーか……
 この甘さひかえめのクリームみたいで……あ、うめえな、これ。

 

 あれから、イマイチ理解できていなかったところをマルコとジャンに教えてもらって、ジャンといっしょにマルコの家を後にした。
 やっぱり成績のいい人達は頭の構造からして違うみたいだ!

 ジャンと並んでマルコの話をしながら夕暮れの道を歩く。
 ジャンは、スマートに車道側を歩く。
 そういう人だ。
 でも、私達はマルコ大好き仲間。
 ジャンとマルコの話をすると、さらにマルコのこと好きだなぁ……って気持ちが募る。
 ジャンはマルコの魅力をよくわかってる!
 私を送ると言ってくれたジャンだけど、えっと、丁重にお断りして……
 別れ際ににやりと笑っていたから、ジャンにはバレちゃっているのかもしれない。
 電車で帰るジャンと駅前で別れて、やっぱり、どうしても、マルコが恋しくなってしまった私は、今来た道を走った。
 せっかく頭に叩き入れた内容が、走るたびにこぼれてしまうようだったけど、その分、私の中はあふれるマルコへの愛しさでいっぱいだ。

 玄関の扉を開けたのは、びっくり顔のマルコ。
 どうしたの? 忘れ物でもした? なんて言うマルコにうん、と頷いて、マルコの首っ玉に抱き着いて、爪先立ちのキス。


「これ、忘れた!」


 しばらくマルコはぽかんとしていたけど、それから、嬉しそうに笑って。
 玄関で、靴のまま、マルコから降るようなキスを受け入れた。

 

 後日、きちんと上位をキープしているマルコとジャンに対して……中の下の私が落ち込むのはまた別の話。


「なんでーーっ!?」


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