104期と王様ゲームのその後 ご注意! ほんのり性的描写があります。 バイブ音で意識が覚醒する。 ああ、携帯が鳴ってる…… 枕元を探ろうとすれば、ぐ、と頭が引き寄せられる感覚。 目の前の、喉仏…… 温かい裸の胸の中で息を潜め、耳慣れた声に聞き耳を立てた。 「もしもし、ジャン? どうしたの? うん、うん、ああ、そっか……ありがとう。わかった、ちょっと待っててもらえる? ……ナマエ、起こしちゃってごめん」 ううん、と頭を振れば、マルコの胸に額をすり寄せるようだった。 ああ、恥ずかしい……面と向かって顔が見られない。 それに、寝起きのひどい顔だって見せたくない。 「ジャンがナマエの忘れ物、持ってきてくれたんだって。ナマエはまだ寝てて」 私に腕枕をしてくれていた腕で、そのままそっと私を横たえて、離れていく指先で私の輪郭をなぞった。 ベッドから出た下着一枚のマルコの背中に、一気に昨夜の記憶が押し寄せて…… 顔が……爆ぜた。 マルコは私に背を向けたまま、床に落ちたズボンを拾い、足を通す。クローゼットから白いシャツを取り出し、ハンガーから外して腕を通した。 ボタンを閉めながら向かったのは小さなキッチンの向こう……玄関のほうだ。 がちゃん、と鍵が外され、ドアの開く音がする。 ◇ マルコはとても丁寧に、ゆっくり、私に触れた。 大きな手のひらはとても温かくて、優しくて……思考も身体も蕩かされた。 加減ができないのか、謝罪混じりに私を力強く揺さぶった彼は、そばかすの散る赤らんだ目元を伏せて…… 食いしばった歯の間から漏れる喘ぎに、額から滴る汗に、どうしようもなく男の人だと感じた。 繰り返し呼ばれながら強引にかき抱かれて、私を求めてくれることを痛いほどに感じて、切なくて、涙が溢れた。 ◇ 「ナマエに電話しても鞄の中で鳴ってるし、困ってるだろうから……だとよ」 「悪かったね、ジャン、ありがとう」 「いや、俺しかマルコん家知んねーし」 狭い玄関に、見慣れたマルコの靴と並ぶ小さなミュールが目に入る。 ああ、ここは居心地がよかったけど、これからはちっと遠慮しなけりゃなんねーな、なんて思った。 「ごめんな、コーヒーも出さなくて」 「いーや、気にすんなよ。それより……よかったな、マルコ」 「……うん、ありがとう」 少し俯いて人差し指で鼻の下を擦る親友の姿に、ここまで女物の鞄を持ち歩くことが気恥ずかしくて荒んでいた気持ちなどどうでもよくなってしまった。 不毛な恋を諦めきれない俺と違って、ずっと目で追ってきた女をついに手に入れた親友。 いつもの黒髪に見慣れない寝癖を見つけて、やはり起こしてしまったかと思う。 きっと今、置いてきぼりだろうナマエにも悪い。 「んじゃ、俺行くわ。早くに悪かったな」 「いや、こちらこそ、ありがとう」 「ああ、またな」 「うん、また来てくれ」 「気が向いたら……な。ま、起きぬけの一発でも楽しんでくれよ」 「〜〜っ!! ジャン〜!!」 ◇ 背を向けて手をひらひらさせたジャンを見送り、ナマエの鞄を持ってベッドに戻れば、ブランケットに包まれてぺたんと座るナマエがいた。 まだ眠たそうなナマエの横に自分も腰掛けて、髪を撫でれば従順に、こてんと頭を預けた。 幸せで……顔が綻ぶ。 「ふふっ、まだ寝てていいのに」 「……ううん」 「ほら、ナマエ、鞄、忘れたんだって」 「…………あー!!」 昨日はあの騒ぎで呆然とする中、マルコに手を引かれてここまで来てしまったんだった。 それから、そのまま…… ああ、また顔が爆ぜそうで……両手で覆った。 「……身体、大丈夫?」 「うー、うん、ちょっと、痛い……かも」 「ごめんね、さすろうか?」 「い、いや! その、さすられたらまた気持ちよくなっちゃいそうなところ……って何言わせるの!?」 「ははっ、そっか。痛いところ、腰とか背中だと思ったんだ……ごめん」 ブランケットの上からぎゅっと、耳まで赤いナマエを抱きしめる。 「本当に可愛いなぁ。好きだよ、ナマエ……大好き」 そのままふたりでもう一度、倒れるようにベッドに埋もれた。 「もうちょっと寝ようか」 「マルコが惰眠を貪ろうなんて、珍しいね」 「うん。もう少し、こうしていたい気分なんだ……」 ナマエの背後から腕を回し、うなじに額を埋める。 今度こそ、目が覚めたらナマエの目蓋に、頬に、額にキスをして、そうしてゆっくりともう一度……口唇にキスを重ねよう。 やっぱりジャンは何もかもお見通しだと、マルコは小さく笑いながら目を閉じた。 |